(第58回)[商業登記編]
株主総会時点で本店移転日が決まっていない場合の対応法

当社は上場会社ですが、2021年春に本店所在地を現在の「東京都渋谷区」から「東京都新宿区」に移転する予定です。
2020年12月に定時株主総会を行う予定であるため、当該定時株主総会において、本店移転に係る定款変更決議を行いたいと考えております。
しかし、具体的な本店移転日が、定時株主総会時点で決定しておりません。
そのような場合でも、本店移転に係る定款変更決議を行うことは可能でしょうか?
可能だとすれば、具体的にどのような決議内容にすれば宜しいでしょうか?

1.本店移転の際の定款変更決議の必要性

 株式会社(以下「会社」といいます。)の場合、定款に本店所在地を定める必要があります(会社法27条3号)。但し、具体的な住所を全て記載する必要まではなく、東京都の場合は、「渋谷区」・「新宿区」までの記載とする等、最小行政区画まで定めれば足りるとされています。
 そして、会社がオフィスの引っ越し等により本店移転をする際、設例のように違う区に移転する場合には、定款変更をするための株主総会決議が必要となります(定款変更決議をする株主総会手続の一般的な方法は、登記相談Q&A第13回をご参照ください。)。
 その上で、具体的な本店移転先の住所・本店移転日については、取締役会(取締役会非設置会社の場合は、取締役の過半数の決定)で決議します。
 ちなみに、設例と異なり、同じ区内で本店移転する場合には、原則として定款変更が不要なので、株主総会決議は不要であり、取締役会で本店移転先の住所・本店移転日を決議すれば足ります。

2.株主総会時点で本店移転日が決まっていない場合の対応法

 設例のように、上場会社の場合、株主総会を開催することが容易ではないため、株主総会は、定時株主総会のみ年1回行うことが一般的です。臨時株主総会を開催するケースは、定時株主総会を待っていてはスケジュール的に間に合わない組織再編に係る議案等、非常に稀です。
 したがって、通常は、定時株主総会で、その年度で必要となる株主総会決議事項を一括して決議することが多く、本店移転に係る定款変更決議も同様です。
 そのため、タイミングによっては本店移転時期よりも大分前に定時株主総会を実施することもあり、本店移転先のオフィスは決まっているものの、オフィスの契約条件を調整中などの理由で、定時株主総会時点では、本店移転日が決まっていないケースも少なくありません。
 その場合には、本店移転に係る定款変更決議と併せて、以下のような内容の定款附則条項を設ける決議を行うことによって、対応が可能です。

定款附則

  1. 第1条

    「第●条(本店の所在地)の変更は、2021年12月に開催を予定する第●回定時株主総会までに開催される取締役会において決定する本店移転日をもって効力を生ずるものとする。なお、本附則は、本店移転の効力発生日経過後これを削除する。」

3.本店移転登記の際の注意事項

 本店移転登記自体は、複雑な登記手続ではありませんが、以下のような細かい注意事項があります。特に、①については、誤った登記をしてしまった場合、更正登記を別途行う必要がありますので、ご注意ください。

<注意事項>

  1. 法務局では、取締役会議事録に記載の本店移転後の住所に誤りがあったとしても、正しいかどうかの判断・調査を原則として行わないこと。
    →誤記等の理由により、取締役会議事録に誤った住所が記載されていたとしても、そのまま登記が完了してしまいます。

  2. 本店移転に伴って、管轄法務局が変わる場合、会社代表印の印鑑届出・印鑑カード交付申請を新しい管轄法務局で改めて行う必要があること。
    →設例の場合であれば、渋谷法務局から新宿法務局に管轄法務局が変わるため、本②の対応が必要です。
    具体的には、現在の管轄法務局である渋谷法務局に、新しい管轄法務局である新宿法務局に提出すべき本店移転登記申請書を提出することになるため、印鑑届書・印鑑カード交付申請書も一括して渋谷法務局に提出することになります。

  3. 本店移転に伴って、管轄法務局が変わる場合、登記事項証明書の古い情報は、新しい管轄法務局に引き継がれないこと。
    →新しい管轄法務局に引き継がれる登記情報は、本店移転登記申請時点で効力を有しているものに限られます。
    例えば、本店移転登記申請時点で、既に退任している役員に係る登記事項は、新しい管轄法務局で取得する登記事項証明書には記載されません。
    そのような登記情報が必要な場合には、本店移転前の管轄法務局で、閉鎖事項証明書を取得する必要があります。

4.当事務所に依頼することのメリット

 本店移転登記自体は複雑ではありませんが、上記3.の注意事項等、市販の書籍等では明確な記載のない実務対応が商業登記実務には多々あり、それらを全て把握し、かつ最新情報を速やかに入手することは容易ではなく、経験も必要です。
 当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、商業登記に関する最新の実務に基づいた適切なアドバイスが可能です。
 本事例に限らず、会社に関する登記事項の変更を検討する方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上