(第57回)[商業登記編]
電子署名をした取締役会議事録の商業登記手続への利用の可否

当社は、任期満了による改選期のため、定時株主総会で取締役の再任決議をし、かつ同日付の取締役会で代表取締役の再任決議をしました。
しかし、今般のコロナウィルス(以下「コロナ」といいます。)の影響で役員が在宅の者も多く、また海外在住の者もいるため、郵送にて持ち回りで捺印手配をしていると、2週間の登記申請期限までに取締役会議事録への捺印が間に合いそうにありません。
取締役会議事録に各役員が電子署名する方法でも登記の際に添付する議事録として認められるようになったと聞きましたが、実際に利用可能な方法でしょうか?

1.取締役会議事録の役員捺印と登記申請期限の問題

 株式会社(以下「会社」といいます。)の場合、同じ人が代表取締役を継続する場合でも、任期満了のタイミングで、定時株主総会により取締役の再任決議をした上で、同日付の取締役会で代表取締役の再任決議をし、かつ再任登記をする必要があります(再任登記の詳細は、登記相談Q&A第3回をご参照ください。)。
 そして、定時株主総会日・取締役会日から2週間以内に当該再任登記申請をする必要があるため(会社法915条1項)、遅くともそれまでに当該再任登記の添付書類となる取締役会議事録の捺印を終えている必要があります。
 上記のように登記の影響で時間的な制約があり、かつ取締役会議事録の場合には、原則として、出席取締役・監査役全員の記名捺印が必要なため(会社法369条3項)、役員数が多い会社等では、捺印手配に苦労をしているという問題があります。
 特に近年は、海外在住の役員や会社への出社回数が少ない社外役員が増えたため、取締役会当日等役員が一堂に会する機会に捺印をもらうよう、代表取締役の再任等登記手続に必要な議案のみを記載した登記用の取締役会議事録を予め準備しておくなど、各社で工夫して対応していたようです。
 しかし、コロナの影響で、役員が一堂に会して取締役会を行うのが難しくなり、Webを活用して取締役会を行う会社が従前以上に増加しました。その場合であっても、取締役会議事録には、Webを介して出席した役員の記名捺印が必要となるため、より一層、取締役会議事録の捺印手配に時間を要してしまう事態が生じています。その影響で、取締役会議事録への捺印が登記申請期限に間に合わないというケースや相談がここ最近増加傾向にあるという印象です。

2.電子署名の活用

 上記1.記載のように取締役会議事録の作成に時間を要する最大の要因は、紙で印刷した議事録に出席した役員全員が記名捺印をする必要があるということです。
 これを解消するために、作成した取締役会議事録のデータに役員全員が電子署名をすることで、紙で印刷したものに捺印した議事録と同様の扱いにしたいという要望がコロナの影響で大幅に増加しました。
 電子署名自体は、コロナの前から制度として存在しましたが、実際に登記に使用するためには、役員全員が個人の住所を管轄する区役所・市役所で登録した電子署名(いわゆる「公的個人認証サービス」)を用いる必要がありました。そのため、紙で印刷した取締役会議事録に役員個人の認印(代表取締役の捺印は法務局に届出している会社代表印)を捺印するよりも準備等に手間を要するので、利用しているというケースを当方はほとんど聞いたことがありませんでした。
 しかし、2020年6月15日、法務省が議事録等の登記の添付書面に使用可能な電子署名につき、従来の公的な電子署名以外に、以下の2社(本稿執筆現在)が認証する電子署名(以下「クラウドサイン等」といいます。)の使用を認めました(但し、会社代表印又は役員個人の実印の捺印が必須の書面を除きます。)。

①クラウドサイン(サイバートラスト㈱・弁護士ドットコム㈱)
②GMO電子印鑑Agree等GMOグループの電子署名
 (GMOグローバルサイン㈱等)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html
(法務省のオンライン登記申請・電子署名のホームページ参照)

 これにより、従前のように役員各個人が電子署名を準備しなくとも、上記2社いずれかのサービスを利用することにより、クラウドサイン等で取締役会議事録の作成が可能となるため、従前よりは利便性が増したと考えられます。特に登記に使用しない議事録であれば、後記3.のような制約がないので、利用するメリットはあるのではと考えます。

3.商業登記手続に利用することの可否

 上記2.記載のとおり、クラウドサイン等を使用した取締役会議事録は、登記の際の添付書面とすることが可能ですが、制約があります。
 それは、以下の2つです。

①登記申請につき、法務省の登記オンライン申請システムを使用したオンライン申請で行うこと。
②①によってオンラインで登記申請をする際、会社が予め法務局で発行した商業登記電子証明書(法務局発行の会社の電子署名のことです。)で、クラウドサイン等をした取締役会議事録に加えて、さらに電子署名をすること。

 ①は、司法書士が会社の代理人として登記申請することが可能なので、問題はありません。
 しかし、②は、司法書士が会社の代理人として登記申請する場合であっても、司法書士の職務上の電子署名で代替することができず、会社自身が法務省の登記オンライン申請システムを使用して商業登記電子証明書で電子署名を行うか、又は司法書士が会社の商業登記電子証明書ファイルを預かり、かつ同ファイルのパスワードを会社から教えてもらった上で、司法書士にて会社の商業登記電子証明書の電子署名を行う必要があります。
 そのため、会社によっては、書面決議を利用して議事録の捺印を会社代表印のみにする方が簡便であるなど、現状では利便性が高いとは言い難いのではと考えます。
 今後、この点が改正され、①だけでなく②についても司法書士の職務上の電子署名で代替可能となれば、利便性が非常に増すのではと思いますので、運用改正等が再度なされないかどうか、注視していく必要があると考えます。

4.当事務所に依頼することのメリット

 今回のような登記実務の運用改正など、市販の書籍等では明確な記載のない実務対応が商業登記実務には多々あり、それらを全て把握し、かつ最新情報を速やかに入手することは容易ではなく、経験も必要です。
 当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、商業登記に関する最新の実務に基づいた適切なアドバイスが可能です。
 本事例に限らず、会社に関する登記事項の変更を検討する方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上