(第48回)[商業登記編]
会社設立登記のファストトラック化開始

私は、この度独立してコンサルティング会社を株式会社で設立することにしました。
既に取引先との契約も決まっており、可能な限り速やかに株式会社を設立して、当該会社の銀行口座も開設したいと考えています。
株式会社設立や銀行口座開設には時間がかかるのでしょうか?
また、登記簿上の本店所在地は、バーチャルオフィスを想定していますが、手続上の支障はありますでしょうか?

1.会社名義の銀行口座開設の注意点

 株式会社(以下「会社」といいます。)を設立する場合、大まかには定款等各種必要書類を作成し、公証役場で定款認証の上、法務局に設立登記申請をすることによって成立します(具体的な手続の流れ、会社が発起人となる場合の注意点は、登記相談Q&A第15回をご参照ください。)。
 したがって、法務局に登記申請書を提出した日が会社設立日であり、本来はその日から会社としての活動が可能になります。必要書類の準備が早期に対応可能であれば、その分会社設立日までのスケジュールを早めることが可能です。
 しかし、新規取引先や関係役所に提出する目的で会社の登記事項証明書及び印鑑証明書を取得する・会社名義の銀行口座を開設する等、会社設立日直後には行うことができない事項があります。
 その最たるものが、先ほども述べた会社名義の銀行口座開設です。原則として、銀行口座開設のためには、当該会社の登記事項証明書が必要なところ、登記事項証明書は、設立登記申請から法務局の調査が完了するまでの間、一定期間(通常は1週間~10日程度)取得することができないからです。
 また、登記事項証明書等の口座開設必要書類が揃えば即日銀行口座が開設できるわけでもなく、通常は必要書類提出から1~2週間程度、銀行でも審査が必要となり、トータルで設立登記申請日(=会社設立日)から銀行口座開設までの間に1ヶ月程度要することになります。
 さらには、以下の理由から、当該金融機関での銀行口座開設を断わられるというケースも少なくありませんので、ご注意ください。

①本店所在地の事務所の実態が無い場合
 いわゆるバーチャルオフィスの場合です。必要書類として、オフィスの賃貸借契約書の提出を求められることもあり、バーチャルオフィス等事業所としての実態が無い場合は、口座開設を断られるケースがあります。

②資本金額が低すぎる場合
 資本金額は1円でも設立可能ですが、銀行口座開設にあたっては低すぎる資本金額は、マイナスポイントとして扱われることがあります。
 登録免許税等の設立費用だけでも平均30万円程度かかりますので、最低でも資本金額は100万円程度にすべきと考えます。

③事業内容が不明瞭な場合
 実際に行うかどうか良くわからない事業を事業目的として多数記載している・会社の資本金額が低いにもかかわらず金融関係の事業目的を多数記載している場合は、銀行口座開設にあたってマイナスポイントとして扱われることがあります。
 登記手続上は、公序良俗に反するような事業内容で無い限り、事業目的の数や記載内容に原則として規制はありませんが、実際に行う又は近い将来行う予定がある事業目的に絞って定款を作成すべきと考えます。

2.会社設立登記のファストトラック化

 上記1.のとおり、銀行口座開設には時間を要しますが、銀行口座を開設できないと、口座番号等を記載した請求書を発行できない等、事業運営上支障が出ることが多々あります。
 とはいえ、国から銀行審査を一律早期に行うよう強制することは困難かと考えます。
 そこで、会社が活動しやすいビジネス環境整備を図るため、国は、「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクションプラン」(平成28年10月31日各府省情報化統括責任者連絡会議決定)を定め、その一環として、平成30年3月12日以降、原則として、設立登記申請から3日(3営業日)以内に法務局の調査を完了する(=登記事項証明書の取得を可能とする)取組を行うこととしました。これを会社設立登記のファストトラック化といいます。
 そこまで大きな差ではないかもしれませんが、従来は登記申請から1週間~10日程度、法務局によっては2週間程度要していた法務局の調査期間が3日で完了するのであれば、その分登記事項証明書の取得も早期に可能となり、銀行口座開設も早まることとなり、新規に会社設立をする方にとってはメリットです。
 とはいえ、あくまで努力目標のようですから、法務局の繁忙期等、どこまでファストトラック化が行われるかどうかは、現時点で未知数です。
 実際、ファストトラック化直後は、法務局の繁忙期だったこともあり、特段早期に設立登記が完了したという印象はありませんでした。
 また、ファストトラック化の対象となるのは設立登記だけであり、他の変更登記は対象外です。単に対象外なだけならば問題ありませんが、設立登記がファストトラック化されたことにより、優先的に設立登記を処理せざるを得ず、その分他の変更登記の完了が従来よりも遅くなったというのでは、意味がありません。
 今後、どれほどファストトラック化が進むかどうか、またその影響が他の変更登記にも及ぶかどうかは、注視していく必要があると考えます。

3.当事務所に依頼することのメリット

 発起人・取締役がいずれも一人のみである、いわゆる一人会社の場合には、定款等の必要書類の内容も定型なもので対応できるケースが少なく無いので、ご自身で設立登記手続をすることも可能かと考えます。
 しかし、独立当初から仲間数人と会社を立ち上げる場合等、複数人が会社設立に関与する場合には、持株比率や定款内容を調整・検討する必要があるケースが少なくありません。
 また、そのようなケースでは、必要に応じて株主間契約書を作成する等、弁護士に依頼・相談すべき事項もあります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、特に複数人が関与して会社設立を検討する方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上