(第45回)[商業登記編]
上場会社における新株予約権行使登記の注意事項

当社は、本年7月に東証マザーズへ株式上場をしました。
したがって、8月以降、上場前に役員・従業員へ付与したストック・オプションとしての新株予約権が順次行使可能となりますが、新株予約権行使に伴う登記手続で注意すべき事項はありますでしょうか?

1.株式上場をすると新株予約権が行使可能に

 設問のとおり、株式上場等、新株予約権発行時に定めた行使条件を満たし、かつ行使期間の初日が到来している場合には、原則として、新株予約権者である役員・従業員は、自身のタイミングで新株予約権の行使が可能となります。
 そして、新株予約権が行使された場合、自己株式を対価として交付する場合を除き、会社の発行済株式総数・資本金額が増加し、かつ行使された分の新株予約権が減少しますので、会社はそれに応じた変更登記申請を行う必要があります。
 上場前に大量に新株予約権を発行していた場合、行使期間や行使条件の内容にもよりますが、上場翌月から、大量に新株予約権が行使されることが多く、また後記2.記載のとおり登記までのスケジュールが非常にタイトであるため、上場直後は対応に苦慮するケースが少なくありません。
 したがって、会社内の新株予約権の担当部署(受付窓口。以下「担当部署」といいます。)は、株主名簿管理人となっている信託銀行・登記手続を依頼する司法書士と連携し、上場前の段階から、上場後に新株予約権行使があった場合の登記手続に関する一連の社内フローを整理し、準備をしておくことが重要になります。

2.新株予約権行使に伴う変更登記の具体的対応

 当方の経験則になりますが、以下のような手順で登記手続を進めると、スムーズになると思われます。ご参考ください。
 なお、新株予約権行使の登記は、月末締めで、翌月2週間以内に法務局へ申請すれば問題ありません(会社法915条3項)。
 例えば、8月1日~8月31日の間に行使された新株予約権につき、一括して、9月14日(土日祝日等の関係で登記期限が変わることもあります。)までに申請すれば足ります。
 一見すると、期限に余裕がありそうにも見えますが、8月31日ギリギリまで行使がなされる可能性があり、その場合には登記事項が8月31日まで確定せず、また新株予約権の行使分量によっては、⑤の段階で既に9月8日頃になっていることもあるため、スケジュールは非常にタイトだと考えます。そのため、①~⑥の手順がスムーズに行えるよう、事前準備が重要になります。

<新株予約権行使があった場合の登記手続までの手順>

  1. 担当部署にて、新株予約権者から提出された新株予約権行使請求書(以下「行使請求書」といいます。)の受付

    • 行使請求書は、信託銀行の雛形を使用するのが一般的です。

  2. 担当部署から信託銀行へ行使請求書の提出

    • 提出前に、会社内の管理用として、行使された新株予約権の個数を集計し、一覧表にしておくと便利です。
    • 司法書士に登記手続を依頼する場合には、②の段階で行使個数を司法書士に報告すると登記手続がスムーズです。

  3. 新株予約権者が会社指定口座に行使に伴う払込金の振込

    • 有償新株予約権等、当該新株予約権の帳簿価額を貸借対照表に計上している場合には、当該帳簿価額も資本金等増加限度額に加算する必要があります(会社計算規則17条)。

  4. 信託銀行にて払込金の入金確認・行使請求書への入金確認印の捺印

  5. 信託銀行から会社へ行使請求書の返却
    信託銀行によっては、株式発行報告書等、一月の間に行使された新株予約権の個数・対価として発行した株式数を集計したレポート文書を作成してくれます。信託銀行に事前に相談し、そのようなレポート文書の作成が可能な場合には、発行をしてもらうと、新株予約権の行使個数等の集計にミスが生じにくくなり、お勧めします。

  6. 後記3.記載の必要書類を揃えて、法務局へ登記申請

3.新株予約権行使に伴う変更登記必要書類

 新株予約権行使に伴う変更登記の際に、法務局へ提出すべき必要書類は、原則として以下のとおりです。

<登記必要書類>
①新株予約権発行時の株主総会議事録
②新株予約権発行時の取締役会議事録
 *募集事項の決定を取締役会に委任していた場合に必要です。
③行使請求書
④株主リスト
 *不要とする法務局もあります。
⑤資本金額の計上に関する証明書
⑥払込を証する書面
 *行使に伴う払込金が受領されていることがわかる通帳のコピーを綴じます。

4.当事務所に依頼することのメリット

 新株予約権行使の登記は、登記手続に慣れている方であれば、それほど複雑ではありません。
 また、行使の分量が少なければ、自社で登記申請の対応をすることも可能かと考えますし、実際には、多くの上場企業が自社で登記申請の対応をしているようです。
 しかし、上場から何か月間は、行使の分量が多いことが見込まれ、また会社担当者も新株予約権行使の登記を今までやったことが無い等、慣れていないケースが少なくありません。
 したがって、少なくとも、上場から何か月間は、司法書士に登記依頼をし、一連の流れ等を司法書士にアドバイスをもらいながら、自社で登記申請する体制を整えることをお勧めします。
 当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、新株予約権行使の登記についても、適切なアドバイスが可能です。
 本件の事例に限らず、上場を控え、新株予約権行使の対応に不安を感じている企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上