(第39回)[商業登記編]
総数引受契約による募集株式発行手続の改正

当社は、取締役会設置会社であり、普通株式とA種優先株式を発行している種類株式発行会社です。
今回、新規にベンチャーキャピタルから出資を受けることになり、B種優先株式で発行する予定です。
通常の募集株式発行手続と異なり、注意する点はあるでしょうか。
また、総数引受契約の対応に改正があったと聞きましたが、具体的にはどのような改正があったのでしょうか。

1.新しい種類株式を発行する場合の募集株式発行手続

 普通株式とは剰余金の配当額等内容の異なる株式を発行する会社を、種類株式発行会社といいます(会社法2条13号)。
 本事例のように、会社がベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)から出資を受ける場合、VCと締結する投資契約で様々な条件が付されるとともに、その条件の内容に応じた種類株式を発行するケースが多いです。
 そして、既に株主となっているVCとは別のVCから新たに出資を受ける場合、その投資条件は既存VCと異なるため、種類株式もB種優先株式と既存の種類株式とは別の内容の種類株式を発行することになるケースが少なくありません。
 その場合、第三者割当による募集株式発行手続を行い、B種優先株式を発行することになりますが、種類株式発行会社ではない会社が行う通常の募集株式発行手続(通常の募集株式発行手続については、登記相談Q&A第5回をご参照ください。)と異なり、種類株式発行会社が募集株式発行手続をする場合、2種類の種類株主総会の必要性を検討する必要があります。
 具体的には、以下のとおりです。

 <必要となる可能性がある種類株主総会>
 ①B種優先株式を新たに追加するための定款変更(会社法322条1項1号イ)
 ②B種優先株式を発行するための募集事項の決定(会社法199条4項)

2.2種類の種類株主総会

 上記1.記載のとおり、新たな種類株式を発行する場合、2種類の種類株主総会が必要となる可能性があります。
 まず、①の種類株主総会ですが、既存の種類株主に損害を与えるおそれがある内容の種類株式を新規に追加する場合に必要となります(会社法322条1項1号イ)。
 新規に追加する種類株式は、既存の種類株式よりも内容が有利なことが少なく無いですし、その判断が難しいケースであっても、念のため種類株主総会を行っておくことが一般的です。
 そのため、定款変更を行うための通常の株主総会(以下「通常株主総会」といいます。)とは別に、普通株主を構成員とする種類株主総会(以下「普通種類株主総会」といいます。)とA種優先株主(以下「A種種類株主総会」といいます。)を構成員とする種類株主総会が必要となります。
 A種優先株主に通常株主総会の議決権がなければ、通常株主総会と普通種類株主総会において議決権を行使することができる株主の構成は同じなので、通常株主総会だけで足りるのではと誤解される方も少なくありませんが、通常株主総会と普通種類株主総会の株主構成が同じであっても、株主総会としては別物なので、それぞれ開催が必要です。別々に開催するのであれば、同日に開催することは差支えありません。
 また、会社法322条の種類株主総会は、予め定款で当該種類株主総会を不要とする旨の定めを置いていた場合、不要とすることが出来る決議事項もありますが、本事例のように、新規に種類株式を追加する場合には、当該定款の定めがあったとしても、種類株主総会が必要となりますので、ご注意ください(会社法322条2項、3項)。

 次に、②の種類株主総会ですが、本事例の場合は不要です。
 ②の種類株主総会は、原則として、株式譲渡制限規定のある非公開会社(以下「非公開会社」といいます。)において、新規に種類株式を発行する場合、当該発行する種類株式に係る種類株主総会が必要です(会社法199条4項)。
 しかし、本事例の場合、今回初めてB種優先株式を発行するため、既存のB種優先株主がいないので、B種優先株主総会が不要です(会社法199条4項但書)。
 普通種類株主総会・A種種類株主総会も必要では?と誤解されている方も少なくありませんが、②の種類株主総会は、実際に発行する種類株式の種類株主総会に限定されていますので、本事例においてはこちらも不要です。
 なお、本事例と異なり、既に発行している普通株式やA種優先株式を追加発行する場合には、当該株式に係る種類株主総会が必要となりますので、ご注意ください。
 但し、定款で当該種類株主総会を不要とする定めを置いていた場合には、不要です(会社法199条4項)。

3.総数引受契約における会社法の改正

 種類株式を発行する場合であっても、通常の募集株式発行手続と同様、総数引受契約方式を採用した方が、簡便です(総数引受契約方式については、登記相談Q&A第5回をご参照ください。)。
 しかし、平成27年5月1日施行の平成26年会社法改正(以下「本改正」といいます。)によって、総数引受契約方式の手続が変わりました。
 具体的には、非公開会社かつ取締役会設置会社の場合、総数引受契約をすることにつき、取締役会の承認が必要となりました(会社法205条2項)。株主総会前に行うことも可能なので、株主総会を招集決定する取締役会と併せて、本承認決議も行っておくのが、宜しいかと考えます。
 なお、取締役会非設置会社の場合は、本承認決議を株主総会で行う必要があるため、募集株式発行の株主総会と併せて行うと宜しいかと考えます。
 また、本承認に係る議事録も募集株式発行の登記申請の添付書類として必要になりましたので、ご注意ください。

 他方で、新株予約権発行手続においても、同内容の本改正がありましたので、ご注意ください(会社法244条3項)。

4.当事務所に依頼することのメリット

 VCから出資を受けて種類株式を追加発行する場合、単に登記手続を行うだけでなく、VCとの間の投資契約や株主間契約の締結、種類株主総会の開催準備など、弁護士に依頼・相談すべき事項が多々あります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、VCから出資を受けることを検討する企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上