(第22回)[不動産登記編]
時効取得による登記と、その前提として必要になる相続登記の方法

私は、私の所有地に隣接している土地を、他人名義の土地とは知らずに20年以上の間、私の土地として使用してきました。
調べたところ、登記名義人は既に20年以上前に死亡しており、私が時効取得を主張しても、登記名義人の相続人は、私名義に変更する登記手続に協力してくれそうにありません。
私一人で私名義に変更する登記申請をするためには、どうすれば宜しいでしょうか。

1.時効取得による移転登記の方法

 所有の意思をもって、他人の物を平穏かつ公然に一定期間継続して占有した場合、当該物の所有権を取得することを取得時効といいます(民法162条)。
 本事例のように、他人名義の土地を自分の所有地として使用している状態が20年間継続し、現在の所有者に対し時効援用の意思表示をしたときには、あなたはその土地を時効により取得したことになります。

 ところで、不動産登記では、取得時効のように、売買等の契約によらないで権利取得をした場合にも、原則として登記義務者と登記権利者の共同で登記申請をする必要があります(不動産登記法60条)。
 本事例の場合には、登記名義人の相続人全員が登記義務者となりますので、相続人全員の協力が無くては、あなた名義にするための時効取得による所有権移転登記(以下「時効取得による移転登記」といいます。)をすることができません。

 しかし、登記手続を命ずる確定判決を取得し、当該判決書を添付すれば、あなたは単独で時効取得による移転登記をすることが可能です(不動産登記法63条。判決による登記の詳細については、登記相談Q&A第4回に記載がありますので、ご参照ください。)。
 本事例の場合には、登記名義人の相続人全員を被告として訴訟を提起し、「被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、昭和●●年●月●日(時効の起算日)時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ」との判決を求めることになります。

2.時効取得による移転登記の前提として必要になる相続登記

 土地を時効により取得した場合、取得の効力は起算日である占有開始日まで遡ります(民法144条)。
 したがって、起算日後に登記名義人が死亡した場合には、時効取得による移転登記の前提として、相続人名義とする所有権移転登記(以下「相続登記」といいます。)は不要です。
 他方で、起算日前に登記名義人が死亡していた場合には、時効の効力発生前に相続の効力が発生しているので、相続登記を申請する必要があります。
 なお、時効の場合には、取得の効力が発生するまで長期間を要するので、訴訟を提起する時点で、既に数次相続(数次相続の詳細については、登記相談Q&A第1回に記載がありますので、ご参照ください。)が発生していることが多々あります。
 しかし、現在生存している相続人名義となるまで相続登記をする必要はなく、あくまで時効起算日前に発生している相続についてのみ相続登記を申請すれば足ります。
 この点につき不動産登記法上の規定は無く、時効取得をしたあなたとは何ら関係のない相続登記を申請しなければならないことは不合理な感もありますが、現在の登記実務上では上記のような取り扱いとなっていますので、ご注意ください。

 また、相続登記は相続人から申請する必要があるため、本来、相続人ではないあなたは登記申請権限がありませんが、判決取得後であれば、相続人に代位して相続登記申請をすることが可能です。
 上記のように、本来の登記を申請すべき人(相続人)が登記をしないため、その人に別途の登記を請求する権利がある人(あなた)が、代わって登記を行うことを代位登記といいます(不動産登記法59条1項7号)。

3.当事務所に依頼することのメリット

 上記1.で記載した通り、単独で時効取得による移転登記を可能とするために、確定判決を得るための訴訟手続及び状況に応じて仮処分の手続(以下「訴訟手続等」といいます。)を行う必要があります。
 これらの手続を行う前に登記名義人の相続人に土地を処分され、名義を移されてしまった場合には、取り戻すのが非常に困難になります。
 したがって、訴訟手続等は迅速かつ正確に行う必要があります。
 登記手続は司法書士の専門分野ですが、訴訟手続等は弁護士の専門分野です。
 しかし、訴訟手続等においても、登記手続を意識した対応が必要になり、登記に関する知識が必須となりますので、どの弁護士でも迅速かつ正確に対応できるというわけではありません。
 当事務所であれば、不動産分野を専門に扱う弁護士が所属し、かつこのような登記手続の知識が必要な訴訟手続等においては、司法書士である当方も一緒に検討することが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件のようなケースでお困りの方がいましたら、是非訴訟手続等の段階からお気軽にご相談ください。
 なお、時効取得による移転登記及び代位による相続登記申請に添付する一般的書類は以下の通りです。

A.時効取得による移転登記

  1. (1)判決正本
  2. (2)確定証明書
  3. (3)あなたの住民票の写し
  4. (4)本件土地の固定資産評価証明書

B.代位による相続登記

  1. (1)判決正本
  2. (2)確定証明書
  3. (3)相続関係を証する戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍謄本
  4. (4)相続人の住民票の写し
  5. (5)本件土地の固定資産評価証明書

以上