(第12回)[商業登記編]
有限会社から株式会社に変更する方法

私は、有限会社を経営しています。会社法下では、株式会社へ変更する手続が、従前より簡便になったと聞きました。
具体的にはどのような手続が必要でしょうか。
なお、私の会社は、設立してから10年以上経過していて、今まで役員を変更したことがありません。

1.特例有限会社とは

 会社法では、有限会社制度が廃止され、新規に設立することができなくなりました。
 但し、会社法施行前に設立した有限会社は、「特例有限会社」として会社法施行後も存続することになります(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)2条1項)。本日現在、当該整備法が廃止されるという予定はなく、有効期限もありません。

2.株式会社に変更する手続

 とはいえ、最低資本金制度が撤廃され、1000万円相当の金銭等の財産を用意しなくても株式会社に変更することができるようになりましたので、取引先との関係などから、株式会社に変更したいと考える方は多いと思います。実際、当事務所でも、多数の有限会社を株式会社化してきました。
 具体的な手続は原則として次のとおりとなります(整備法45条)。
 ①株式会社用の定款の作成
 ②株式会社への商号変更及び新定款承認の株主総会決議
 ③株式会社設立及び有限会社解散登記申請
 ④株式会社代表印の届出
 貴社は、設立から10年以上経過しているため、定款で役員の任期を最長の10年とした場合であっても、株式会社への変更と同時に、既存の役員の任期が満了します。
 したがって、上記手続と同時に、役員選任手続(同じ人が役員となる場合であっても再任手続が必要)が必要になります。
 その他、株式会社への変更と同時に、増資や目的変更なども一緒にすることが可能です。
 但し、管轄法務局外への本店移転は、現在の登記実務上、同時に申請することが認められていません

3.株式会社となるメリット・デメリット

 他方で、株式会社となるメリット・デメリットを次のとおり挙げておきます。株式会社への変更を検討する際の参考にしてください。
 会社として大きく発展していく、又は会社法を活用したいという場合には、株式会社に変更することが必須といえるでしょう。

<株式会社となるメリット>
①機関設計の選択の幅が広がること
 有限会社では、取締役・代表取締役・監査役しか置けません(整備法17条1項、2項)が、株式会社では、全ての機関(取締役会、会計参与等)の設置が可能です。
②株式の譲渡制限規定の多様化
 株式会社では、譲渡制限規定の内容を会社の実情に合わせて柔軟にすることができます。
 しかし、有限会社では、譲渡制限規定の内容を変更することが出来ず、株主間の譲渡につき規制することができません(整備法9条1項、2項)。
③合併等の自由化
 有限会社では、有限会社を存続会社とする合併等が禁止されています(整備法37条・38条)。株式会社では、そのような制限はありません。

<株式会社となるデメリット>
①商号変更に伴う諸経費の発生
 株式会社化する場合、少なくとも商号が「有限会社●●」から「株式会社●●」に変更するので、取引先等に挨拶状を送付したり、会社の看板などを変更することが一般的です。
 取引先の数が多ければ多いほど、挨拶状一つとっても、その労力と費用がかなりかかるでしょう。
②決算公告の義務化
 株式会社の場合、会社法上、毎年決算公告をする義務がある(会社法440条)ので、原則として官報費用が毎年かかることになります(最低でも約6万円)。決算公告をしないと、過料の制裁を受ける可能性があるので、注意が必要です。有限会社の場合には、決算公告をする義務がありません(整備法28条)。
③役員の任期が最長でも10年
 株式会社の場合、役員の任期が最長でも10年です(会社法332条)。したがって、少なくとも10年に1回は役員の再任手続が必要となります。有限会社の場合には、役員の任期がない(整備法18条)ため、同じ人が役員を継続する限りは、役員の再任・変更手続が不要です。

4.当事務所に依頼することのメリット

 最近受けた相談で、有限会社を存続会社とする合併を行いたいが、その前に株式会社化する必要があり、それら一連の手続を別の司法書士に依頼したところ、当該司法書士の手続と説明に不備があったため、相談者が希望する期限までに手続が終わらない見込みになってしまったが、なんとかならないか?との話がありました。
 しかし残念ながら、当方がこの話を聞いた時点で、合併に必要な法定期間を確保することができず、相談者が希望する期限までに手続を終了することが物理的に不可能であったため、手続を受けることができないと回答しました。
 株式会社化してから合併するという手順自体に誤りはないのですが、ある程度これらの手続は同時並行で進めることが可能であるため、同時並行で進めていれば、相談者が希望する期限までに手続が終了し、新体制でスタートすることができたものと考えます。
 このように、司法書士は登記の専門家ですが、人によって専門分野が異なるため、会社法・商業登記の分野を苦手とする司法書士の方もいます。
 当方であれば、本件のような事例に限らず、会社法・商業登記分野を専門とし、多数の経験を積んでいますので、正確かつ迅速に手続を行うことが可能です。
 有限会社を株式会社化することをお考えの方がいましたら、お気軽にご相談ください。
 なお,本件登記申請に添付する書類は下記の通りです。

有限会社から株式会社への変更に伴う株式会社設立登記及び有限会社解散登記

  1. (1) 定款
  2. (2) 株主総会議事録
  3. *その他、役員変更、増資等を同時に行う場合には、それらの手続に必要な書類を添付する必要があります。

以上