(第7回)[商業登記編]
合併手続で債権者への個別催告を省略する方法

当社は、当社が株式を100%有する子会社を吸収合併することを考えております。
吸収合併をする場合、当社及び子会社債権者に対し、吸収合併の旨を個別催告する必要がありますが、当社は、取引先も多く債権者 が多数いるため、非常に手間を要します。
債権者への個別催告を省略できる方法があると聞きましたが、具体的にどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.吸収合併とは

 吸収合併とは、他の会社の資産や負債等権利義務全てを承継し、他の会社は清算手続をせずに消滅することであり(会社法2条27号)、権利義務を承継する会社を「吸収合併存続会社」、承継させ解散する会社を「吸収合併消滅会社」といいます(会社法749条1項1号)。

2.債権者保護手続とは

 吸収合併をすると、上記の通り吸収合併存続会社(以下「存続会社」といいます。)は吸収合併消滅会社(以下「消滅会社」といいます。)の資産だけでなく負債も承継し、消滅会社は解散消滅するので、両社の株主だけでなく、債権者にも多大な影響や不利益を与える可能性があります。
 したがって、吸収合併をする場合、両社全ての債権者に対し、合併について異議等を述べる機会を与える必要があります(会社法789条、同法799条)。
 これを「債権者保護手続」といいます。
 原則として、債権者保護手続は、吸収合併する旨及び両社の最終事業年度に係る決算公告の開示情報を記載した公告文を官報に掲載(以下「官報公告」といいます。)し、かつ会社が把握している債権者に対しては、公告と同内容の情報を個別催告する必要があります。
 そして、官報公告掲載日及び個別催告日の翌日から1ヶ月以上の異議申述期間を設ける必要があります。

 なお、決算公告を毎年行っていない会社については、合併公告と同時に最終事業年度の決算公告も掲載する必要がありますので、ご注意ください。

 また、子会社を吸収合併する場合等、略式合併や簡易合併の要件(会社法784条、同法796条)を満たすケースであれば両社の株主総会決議を省略できるのに対し、債権者保護手続については、例え債権者が1人もいなくても、省略することができません(債権者が1人もいなければ個別催告は当然不要ですが、1ヶ月の期間を設けた官報公告は必要です。)。

3.個別催告を省略する方法

 他方で、上記の通り債権者保護手続自体は省略することはできませんが、債権者が多数いる場合でも個別催告を省略する方法があります。
 それは、定款に公告媒体を「日本経済新聞などの日刊新聞紙」又は「電子公告」(電子公告の詳細及びメリット・デメリットについては、登記相談Q&A第6回をご参照ください。)と規定している会社が、合併公告を官報及び当該公告媒体双方に掲載する方法です(会社法789条3項、同法799条3項)。

 債権者が多数いる場合には、債権者の確定作業や発送事務に手間と時間をかなり要するので、この方法により個別催告を省略することはメリットがあります。
 実務的には、少額の債権者には個別催告を送付しない方法を採る会社もありますが、この方法ですと合併手続に瑕疵が残りますので、好ましくありません。
 さらには、この方法により、多数の債権者がいるために個別催告漏れをするというリスクもなくなります。

 但し、個別催告を省略するためには、定款所定の公告媒体に合併公告を掲載する時点で、公告方法を「電子公告」等とする旨を登記している必要があります。
 したがって、個別催告省略方法の採用を検討している会社の公告方法が「官報」の場合には、合併公告前に公告方法を変更し、かつ変更登記申請をしなくてはなりません。
 公告方法は、株主総会で定款変更決議を行った時点で効力が生じ、登記はあくまで対抗要件ですが、登記実務上はそのような取扱いになっており、もし事前に公告方法変更の登記申請をしておかないと、適法な債権者保護手続を行ってないと判断され、吸収合併登記申請が却下されますので、ご注意ください。

4.当事務所に依頼することのメリット

 合併等の組織再編手続を行う場合、会社法所定の手続を遵守した上でスケジューリングを行うことや、上場会社等の企業規模が大きい企業であれば金融商品取引法や独占禁止法など、会社法以外の法令にも注意する必要があるなど、検討すべき事項が多岐に亘ります。
 したがって、会社が希望するスケジュール通り、不備なく行うためには、慣れていないと難しいでしょう。
 当方であれば、上場企業からベンチャー・中小企業まで、様々な規模の会社の類似案件を多数経験していますので、迅速かつ正確な対応が可能です。
 また、当事務所であれば、合併契約書など各種契約書のレビュー・ドラフトや法務デューデリジェンスなどを弁護士が行うことが可能であり、単なる登記手続だけでなく、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、合併等の組織再編手続やM&Aを検討している会社がありましたら、お気軽にご相談ください。
 なお、100%子会社の吸収合併登記申請に添付する一般的書類は下記の通りです。

吸収合併登記

  1. (1) 合併契約書
  2. (2) 取締役会議事録
  3. (3) 官報公告及び定款所定の方法により公告したことを証する書面
  4. (4) 消滅会社の株券提供公告をしたことを証する書面
  5. (5) 異議を述べた債権者はいないことを証する会社代表者の上申書
  6. (6) 略式・簡易合併に該当する旨の証明書

以上