改正会社法~「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」の取締役会決議の義務づけについて~

1 はじめに

 2019年12月に成立・公布された改正会社法(以下「改正会社法」といいます。)は、一部の事項に関するもの(株主総会資料の電子提供制度や会社の支店の所在地における登記の廃止に関するもの)を除き、来る2021年3月1日から施行されます。

 改正会社法については、実務上重要となる会社法施行規則の改正内容等も明らかとなってまいりました(以下、改正後の会社法施行規則を「施行規則」といいます。)。

 そこで、本稿では、重要な改正点であり、また、施行日に先立つ対応も必要となり得る事項として(※)、改正会社法により取締役会決議が義務づけられる「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」(以下、適宜「決定方針」といいます。)について取り上げ、その概要をご紹介いたします。

  1.  ※

     上記事項を対象とする経過措置がないため、厳密には施行日時点において遵守されている(取締役会決議がなされている)必要があると考え得るところです。そのため、遵守を徹底する場合(僅かな期間の違反も避ける場合)には、実務的には、施行日に先立ち改正会社法を踏まえた取締役会決議を行っておく必要があると考えられるところです。

2 取締役会決議が義務づけられる「会社」・決定方針の対象となる「取締役」の範囲

  •  決定方針の取締役会での決定(決議)が義務付けられる会社は、以下のとおりです(改正会社法第361条第7項各号)。

  1.     ① 

    監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの

  2.     ② 

    監査等委員会設置会社

  3.  また、決定方針の対象となる「取締役の個人別の報酬等」における「取締役」からは、監査等委員会設置会社における監査等委員である取締役が除かれています(改正会社法第361条第7項括弧書、施行規則第98条の5第1号括弧書)1。つまり、監査等委員会設置会社においては監査等委員でない取締役(の個人別の報酬等)のみについて、決定方針の決議が義務づけられます。

3 決定方針として取締役会決議が義務づけられる事項


 「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」として、要旨、以下の事項を取締役会で決定しなければならないとされています(施行規則第98条の5)2
 なお、併せて、以下の各事項に関する実務上の留意点として、施行規則等に関するパブリックコメントにて示された考え方3の一部につき、その要旨をお示しいたします。

  • 取締役会にて決定すべき事項

  • 施行規則第98条の5各号
    (執筆者による要約)
  • 実務上の留意点

  • パブリックコメントにて示された考え方
    (その一部の執筆者による要約。また、執筆者による補足を含みます。)
  • 取締役の個人別の報酬等(※)の額又はその算定方法の決定に関する方針

  •   ※

    ②の業績連動報酬等・③の非金銭報酬等に該当しないもの
    ≒一般的な金銭報酬

  • (①~⑧全体に該当する点として)
    左記事項について既に取締役会において決定されている場合、それらに変更がなく、また、取締役の報酬等の内容に関する株主総会決議(や定款)による定め(会社法第361条第1項各号)に変更がない場合にまで、一定の頻度での取締役会決議が求められるものではないとされています。

  • 業績連動報酬等(※)がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

  •   ※

    取締役の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社の業績を示す指標を基礎としてその額又は数が算定される報酬等

  • 「業績指標」には、連結業績を示す指標も含むとされています。

  • 個別判断となるものの、非財務指標に基づいて額又は数が算定される取締役の報酬等についても業績連動報酬等に該当する場合はあるとされています。

  • この②は、「業績指標の内容」そのものを定めることを求めている訳ではなく、「業績指標の内容……の決定に関する方針」を定めることを求めているものであり、必ずしも個別の業績指標の詳細を定めることが求められるものではないとされています。

  • 非金銭報酬等(※)がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

  •    ※

    取締役の個人別の報酬等のうち、金銭でないもの。また、募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含む。

  • ②③いずれにも該当する報酬等については、②③両方が適用されるとされています(※)

  •  ※

    例えば、業績指標により付与数を調整する株式などが想定されます。
    つまり、そのような報酬等については②③で求められる事項をいずれも決議する必要があることになります。

  • 上記①~③の各報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針

  • この④は、取締役の個人別の報酬等の額について、報酬等の種類別の割合の決定に関する方針を定めることを求めるものであり、当該方針として具体的な割合を定めるかどうかは、同方針を定める取締役会において判断されるとされています。
    (つまり、具体的な割合そのものを定めるかは各社の判断に委ねられています。)

  • ②③の報酬等を付与しない場合、①の報酬等の額が取締役の個人別の報酬等の額の全部を占めるため、この④の方針としては、その旨を定める、とされています。
    (つまり、この場合でも④の方針の決定が不要とはされていません。)。

  • 取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針

  • 例えば、取締役の報酬等として金銭を付与する場合に、在任中に定期的に支払うか、退職慰労金等として退任後に支払うかなどの点についての方針が含まれるとされています。

  • 他方、例えば、株式を報酬等として交付する場合において、それを事前交付型とするか事後交付型とするかは、非金銭報酬等の内容(③)の一部であるとも考えられ、このように、⑤の方針に相当する内容が①~③の方針に含むものとして定められていれば、⑤の方針として重ねて定める必要はないとされています。

  • 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項

  •   イ 

    当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当

  •   ロ 

    イの者に委任する権限の内容

  •   ハ 

    イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

  • 任意の報酬諮問委員会等を設置する場合でも、当該委員会等が取締役の個人別の報酬等の内容の決定をしない場合は、この⑥の事項を定める必要はないとされています。

  • 取締役を構成員とする任意の委員会を組織し、当該委員会が取締役の個人別の報酬等の内容を決定する場合は、当該委員会の構成員である各取締役がイの「委任を受ける者」に該当するものとしてイ~ハの事項を定めることになるとされています。

  • ハの措置には、任意に設置された委員会を活用することなども含まれるとされ、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定を代表取締役等に委任する場合において、任意の報酬諮問委員会等を設置し、代表取締役等が当該委員会等の見解を踏まえて上記決定をすることとする場合は、ハの措置に該当することになるとされています。

  • 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(⑥に掲げる事項を除く。)

  • ①~⑦に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

  • 例えば,一定の事由が生じた場合に取締役の報酬等を返還させることとする場合におけるその事由の決定に関する方針等が該当するとされています。

4 事業報告による開示について


 取締役会で決定された、上記3の「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」については、公開会社の事業報告において、以下の事項を開示することが求められています(施行規則第119条第2号、第121条第6号4)。
 上記3同様に、各事項に関する実務上の留意点として、施行規則等に関するパブリックコメントにて示された考え方の一部につき、その要旨をお示しいたします。

  • 事業報告にて開示を求められる事項

  • 施行規則第121条第6号イ~ハ
    (執筆者による要約)
  • 実務上の留意点

  • パブリックコメントにて示された考え方
    (その一部の執筆者による要約)
  • 当該方針の決定の方法

  • 取締役会の決議により決定したこと等に加えて、例えば、方針を決定するに当たって、任意に設置した報酬諮問委員会の答申を得たことなど、当該方針を決定する過程に関する重要な事実があれば、それを記載するとされています。
  • 当該方針の内容の概要

  • このⅱの概要については、その記載の順序等について定めることとはしておらず、上記3①~⑧に掲げる事項ごとに記載しなければならないわけではないとされています。

  • 当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会が判断した理由

  • このⅲの事業報告の記載は,取締役の個人別の報酬等の内容についての決定を取締役その他の第三者に委任する場合にも必要となるとされ、取締役会として、取締役の個人別の報酬等の内容がその決定に関する方針に沿うものであるかどうかをどのような方法で判断するかは、各社の取締役会において判断されるとされています。

 なお、上記3の方針が変更される場合、どの時点かによって方針の内容が変わり得ることとなりますが、パブリックコメントにて示された考え方においては、「どの時点において存在する方針について記載すべきかについては,事業報告の作成時又は当該事業年度末日のいずれの考え方もあり得る」とされています。ただ、続けて、いずれの考え方による場合でも、上記ⅲにて「当該事業年度に係る取締役又は執行役の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会が判断した理由を記載することを求めていることも踏まえ、事業年度中又は事業年度末日後に当該方針について変更があった場合には、変更前の当該方針についても当該理由の説明のために必要な記載をすることが考えられる」との見解が示されており、留意が必要です。

5 おわりに


 本稿では、来る2021年3月1日に施行される改正会社法のうち、「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」について取り上げました。
 改正会社法には、他にも実務に重要な影響を及ぼす事項が少なくないところですので、ご不明な点などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

以上

  1. 監査等委員である取締役の報酬等については、そもそも取締役会ではなく監査等委員である取締役の協議によって定めるものとされているためです(会社法第361条第3項)。
  2. 取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、取締役会での決議義務はないとされていますが、通常、特に上場会社においては、これに該当しないため、取締役会決議を要することとなります。
  3. 法務省(民事局参事官室)「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について 」
    https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000209867
  4. 4本稿では取り扱っていませんが、施行規則第第121条第6号では、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針についても事業報告における記載事項としています。