金融サービス仲介業の創設について

1 はじめに

 2020年6月5日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が可決・成立し、同月12日に公布されました(以下「本改正」)。
 本改正はFinTech業界から注目されていた改正であり、本法律による主な改正事項は、①金融サービス仲介業の創設、②決済法制における資金移動業規制の見直しと利用者保護のための措置の整備、等となります。本稿では、本改正事項のうち①金融サービス仲介業の創設について、ご紹介します。
 なお、①の施行は公布日から起算して1年6月以内の政令指定日、②の施行は公布日から起算して1年以内の政令指定日とされています。

2 本改正の背景

 現行法制上、複数の業種(銀行、証券、保険)にまたがって多数の金融機関が提供する金融サービスの仲介業務を行おうとする場合、仲介する金融サービスの分野に応じ、銀行代理業(銀行法52条の36)、金融商品仲介業(金融商品取引法66条)、保険募集人・保険仲立人(保険業法276条、286条)という複数の許可または登録が必要となります。
 また、保険仲立人を除き、上記各分野の仲介業を行う場合、特定の金融機関に所属することとされており(いわゆる所属制)、多数の金融機関が提供する金融サービスの仲介業務を行おうとする場合、所属金融機関それぞれによる指導・監督に対応する必要があります。
 しかしながら、近年の情報通信技術の発展により、オンラインでの金融サービスの提供が可能となる中、例えば、スマートフォンのアプリケーションを通じ、自身の預金口座等の残高や収支を利用者が簡単に確認できるサービスを提供するとともに、そのサービスを通じて把握した利用者の資金ニーズや資産状況を基に、利用可能な融資の紹介や、個人のライフプランに適した金融サービスの比較・推奨等を行うなど、日常生活上の金融取引ニーズに応える新たなビジネスが展開されることが想定されるところでした。
 そこで、こうした多種多様な金融サービスをワンストップで提供するニーズの高まりを受け、上記のような各業法による縦割りの規制を外し、イノベーションを促進する観点から、本改正により金融商品販売法を「金融サービスの提供に関する法律」に改称の上、新たに「金融サービス仲介業」を創設することとなりました。

3 金融サービス仲介業の概要

  1. (1)

    登録制度

     金融サービス仲介業とは、預金等媒介業務、保険媒介業務、有価証券等仲介業務または貸金業貸付媒介業務のいずれかを業として行うことをいい、金融サービス仲介業という1つの登録を受けることで、複数の分野の仲介業務を行うことができます(具体的には、各業務のうち登録時に指定された複数の業務を行うことが可能となります)。
     なお、オンラインで金融サービス仲介業を行う場合、登録申請時に「電子金融サービス仲介業務」を行う旨の申請をすることになります。この電子金融サービス仲介業務を行う金融サービス仲介業者は、財産的基礎等一定の要件を満たす場合、銀行法上の電子決済等代行業の登録を受けなくとも、届出により電子決済等代行業(例えば、利用者の預金口座から利用者の口座情報を取得し、これを利用者に提供する行為等がこれにあたります)を行うことができるものとされました。

  2. (2)

    所属制の不採用

     金融サービス仲介業者は、特定の金融機関への所属は求められません。

  3. (3)

    業務範囲

     金融サービス仲介業者は、銀行・証券・保険の各分野の仲介業務を幅広く行うことが可能です。もっとも、以下の制限が設けられました。

    1. 取扱い可能な金融商品等の制限

      所属制を採用しないため、金融機関による指導・監督や賠償責任の負担がなされるとは限らないこと、及び顧客に適した金融サービスの比較・推奨等を行うにあたって商品設計が複雑な金融商品・サービスを仲介するニーズは高くないと考えられることから、金融サービス仲介業者は、商品設計が複雑でないものや、日常生活に定着しているものなど、仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる商品・サービスに限って取り扱いが認められるものとされました。具体的な取り扱いは政令の定めによりますが、法案提出段階では以下のように想定されています

      銀行証券保険
      取扱可能普通預金、住宅ローン国債、上場株、投資信託傷害、旅行、ゴルフ
      取扱不可仕組預金非上場株、デリバティブ変額、外貨建
    2. 媒介業務への限定

      一般に「仲介」とは代理または媒介を指すと解されるところ、金融サービス仲介業のビジネスモデルを念頭に置くと、仲介業者を通じて多様な金融商品・サービスへのアクセスを確保する必要はあるものの、必ずしも仲介業者が金融機関や顧客に代わって取引を成立させる必要はないとの考えにより、金融サービス仲介業者は、金融サービスの「媒介」のみを行い、「代理」は行わないものとされました。

  4. (4)

    参入規制

    1. 財産的基盤

      所属制を採用する既存の仲介業では、仲介行為に関して利用者に損害が生じた場合、原則として所属金融機関がその賠償責任を負うこととされていますが、金融サービス仲介業では所属制を採用しないことから、金融サービス仲介業者自身がサービス提供に関連して利用者に賠償責任を負うことが想定されます。
      そのため、利用者の保護の観点から、金融サービス仲介業者の賠償資力の確保に資するよう、保証金の供託が必要とされました。保証金の具体的な金額等は政令の定めによることになります。

    2. 兼業規制

      本改正による「金融サービスの提供に関する法律」施行後も、事業者は既存の各仲介業の許可・登録に基づき仲介業を営むことが可能です。もっとも、仮に銀行・証券・保険の各分野において、ある仲介業者が既存の仲介業と金融サービス仲介業の両方の許可・登録を受け、両方の立場で仲介行為を行いうることとした場合、仲介業者がいずれの立場でいかなる規制に基づいて仲介行為を行っているのか利用者に混同をもたらすおそれがあります。そのため、既存の仲介業の許可・登録を受けている者については、当該分野に関する金融サービス仲介業としての仲介ができないものとされるなど、兼業規制が設けられました。

  5. (5)

    行為規制

     本改正では、金融サービス仲介業者の行為規制として、仲介する金融サービスの分野等に関わらず適用される共通の規制と、取り扱う金融サービスによって適用される個別の規制とに整理されており、仲介業者の事業内容に応じたアクティビティーベースの規制体系となっています。

    1. 共通規制

      1. ⅰ)

        顧客財産の預託受け入れの禁止

        金融サービス仲介業は媒介行為に限定されること、及び想定されるビジネスモデルに鑑みれば、事業運営上、顧客資産の預託を受ける必要性は高くないと考えられることから、金融サービス仲介業者は、その行う業務に関して顧客資産の預託を受け入れることが禁止されました(なお、金融サービス仲介業者が資金移動業等を兼業するなど、他の規制により顧客資産の保全が図られている業者として仲介業務に係る決済を併せ行うことは可能とされます)。

      2. ⅱ)

        顧客情報の適正な取扱い

        金融サービス仲介業者は、銀行・証券・保険の各分野における仲介を横断的に行いうることから、顧客の資産状況等に関する様々な情報を保有しうる立場にあります。そのため、①仲介行為を行う分野間、②兼業業務との間、③グループ会社等との間のそれぞれにおいて、既存の仲介業者に対する規制を参考に、仲介業務を通じて取得した顧客の非公開情報の適正な取扱いの確保が求められています。

      3. ⅲ)

        金融機関から受け取る手数料等の開示

        金融サービス仲介業者の中には、金融機関の側ではなく、顧客の側に立って仲介サービスを提供しようとする者も想定されますが、その区別は顧客にとって外観上明確ではありません。ただ、仲介業者の行動は報酬・利益をどこから受け取るのかといった経済的なインセンティブの影響を強く受けると考えられることから、経済的なインセンティブに関する透明性を確保することが顧客が仲介業者の中立性を判断する上で重要となります。そのため、金融サービス仲介業者は、顧客に対し、仲介業務に関して受ける手数料等の額を明らかにすることとされました。

      4. ⅳ)

        顧客に対する説明義務

        顧客が自身に適した金融商品を選択するには、適切な情報提供がなされなければなりません。そのため、金融サービス仲介業者は、仲介業務に係る重要な事項を説明することとされました。

    2. 各分野における個別の規制

      上記の共通規制のほか、取り扱う各分野に応じ、銀行分野の仲介における情実融資の媒介の禁止、証券分野の仲介におけるインサイダー情報を利用した勧誘行為の禁止、損失補填の禁止、顧客の注文の動向等の情報を利用した自己売買の禁止、保険分野の仲介における意向把握義務、自己契約の禁止、告知の妨害の禁止、不適切な乗換募集の禁止、といった規制が課されることになります。

4 最後に

 本改正により、銀行・証券・保険の各分野にまたがった横断的な金融サービス仲介業の実施が容易になりますので、新たな事業者の参入や、利用者の利便性に資する新たなサービスの提供が促進されるものと期待されます。また、各業法に基づく既存の仲介業者においても、これまで取り扱ってこなかった他の分野の金融商品を新たに取り扱おうとする際の参入方法の選択肢が広がったことを意味します。これらにより、金融分野における情報技術を活用した革新的なサービスの活性化につながり、日々進歩するFinTechの動きをさらに加速させるものと考えられます。
 本改正を踏まえた対応等をご検討の方は、お気軽にご相談ください。

以上

  1. 金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(2019年12月20日)20頁
  2. 金融庁「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」(2020年3月)4頁