職業安定法の改正

1.はじめに

 職業安定法の一部の改正を含む「雇用保険法等の一部を改正する法律」が、平成29年3月31日に成立しました。本項のテーマである職業安定法の改正部分については、平成29年4月1日、平成30年1月1日、公布の日(平成29年3月31日)から3年を超えない範囲で政令で定める日の3段階で施行されます。
 主な改正点としては、①職業紹介における求人の不受理、②職業紹介事業者に対する情報提供義務等、③募集情報等提供事業に係る規定の整備、④労働契約締結前の労働条件等の明示、であり、職業紹介の機能強化と求人情報等の適正化を目的とするものです。
 以下、この改正法の概略について説明していきます。

2.職業紹介における求人の不受理

(1)改正前の内容

 職業紹介を取り扱うハローワークや民間の職業紹介事業者は、一部の例外を除き、原則として、すべての求人・求職(以下「求人等」といいます)を受理しなければならないこととされています。
 なお、以下に該当する場合には、例外的に求人等を受理しないことができます。

 求人等の内容が法令に違反するとき
 求人の内容である賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認めるとき
 求人者(主に企業)が労働条件の明示をしないとき
 一定の労働関係法令違反をした求人者(※)による新卒者向け求人

(※)労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法の一定の規定に違反し、是正勧告を受けたり公表されたりした求人者

(2)改正後の内容【公布の日から3年以内に施行】

 原則については変わりませんが、例外④が拡張されることになります。
 すなわち、一定の労働関係法令違反をした求人者については、新卒者向け求人に限らず、すべての求人について受理しないことができることになります。
 また、新たに例外⑤として、暴力団員等による求人を受理しないことができることになります。
 今のところ、具体的な施行日は決まっていませんが、労働基準法等に基づく是正勧告を受けてしまうと、求人を受理してもらえなくなることから、企業に対して、一定の影響があるものと考えられます。


3.職業紹介事業者に対する情報提供義務等

(1)改正前の内容

求職者や求人者が職業紹介事業者を適切に選択できるようにするため、職業紹介事業者に対して、厚生労働省の運営する人材サービス総合サイト(https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?action=initDisp&screenId=GICB101010)において、一定の情報提供を行うことが義務付けられることになりました。

(2)情報提供義務の対象となる情報【平成30年1月1日施行】

 各年度(4月1日~翌年3月31日)の就職者の数
 ①のうち、期間の定めのない労働契約を締結した者の数
 ②のうち、就職から6か月以内に解雇以外の理由で離職した者の数
 ②のうち、就職から6か月以内に解雇以外の理由で離職したかどうか判明しなかった者の数
 手数料表
 返戻金制度(※)の導入の有無及び導入している場合はその内容

(※)就職から一定期間以内に離職した場合に、手数料の一部を返戻する制度その他これに準ずる制度を指します。

⑦ その他、職業紹介事業者の選択に資すると考えられる情報

(3)ハローワークによる情報提供【平成29年4月1日施行】

 求職者・求人者が希望する場合には、職業紹介事業者の業務情報を、ハローワークが提供することができることとされています(法18条の2)。
 提供される業務情報は上記(2)とされ、業務停止命令や改善命令を受けている事業者についての業務情報は提供されません。

4.募集情報等提供事業に係る規定の整備【平成30年1月1日施行】

(1)改正の趣旨

 求人サイトや求人情報誌などを運営する事業者については、「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準」(https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/minkan/)によって、職業紹介事業の許可を受けるか否かが判断され、許可を受けない場合についての規制はこれまで設けられていませんでした。
 今回の改正により、新たに「募集情報等提供事業」という類型が設けられ、これを扱う事業者に対し、一定の措置を講じることが求められることになりました。

(2)募集情報等提供事業とは

 以下のいずれか、又は両方を事業として行うことをいいます(法4条6項)。

 募集主から依頼を受け、募集に関する情報を求職者に提供すること
 求職者から依頼を受け、求職者に関する情報を募集主に提供すること

(3)募集情報等提供事業者に求められること

ア 募集内容の的確な表示等に関する事項(法42条)
 職業安定法に基づく指針(https://www.mhlw.go.jp/content/000618644.pdf)により、以下の①、②のような対応をすることが求められます。

 一定の募集情報(※)について、募集主に対し、募集情報の変更を依頼するとともに、募集主がその依頼に応じない場合は、その募集情報の掲載を控えるなどの対応をなすこと(指針第3の2(1))
(※)・公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的の募集情報
   ・内容が法令に違反する募集情報
   ・実際の業務内容等と相違する内容を含む募集情報
 募集主から承諾を得ることなく募集情報を改変して提供しないこと(指針第3の2(3))

イ 業務運営に関する事項(法42条の2)
 職業安定法に基づく指針により、以下の①~④のような取組みをなすことが求められます。

 相談窓口の明確化等、苦情を迅速、適切に処理するための体制の整備及び改善向上を図ること(指針第6の2(1))
 求職者の個人情報の収集、保管及び使用にあたっては、指針を踏まえ、秘密に該当する個人情報の厳重な管理等、求職者の個人情報の適正な管理を行うこと(指針第6の2(2))
 募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも報酬を受けてはならないこと(指針第6の2(3))
 ストライキやロックアウトが行われている事業所に関する募集情報の提供を行ってはならないこと(指針第6の2(4))

(4)募集情報等提供事業者に対する指導監督

 必要に応じて、厚生労働大臣や都道府県労働局長による指導や助言がなされます(法48条の2)。
 また、行政庁は、募集情報等提供事業者に対し、必要な事項を報告させることができます(法50条1項)。この報告を怠ったりすると、罰則の対象となります(法66条7号)。

5.労働契約締結前の労働条件等の明示

(1)改正の趣旨【平成30年1月1日施行】

 募集広告で求人者が示した労働条件等と、実際に労働契約を締結する時に示される労働条件等が異なることはトラブルとなるため、求人者に対し、一定の場合には、労働契約締結時の労働条件等の明示の前に、変更後の労働条件を明示することが義務付けられました。

(2)労働条件等の明示のタイミング

 まず、求人者は、募集を行う際に、書面の交付又は電子メールにより、労働条件等を明示しなければなりません(法5条の3・2項)。
 そして、今回の改正により、この明示した労働条件等を変更する場合には、求人者は、その変更内容を明示しなければならないことになりました(変更等明示。法5条の3・3項)。
 さらに、労働者と労働契約を締結する際にも労働条件を明示することが必要です(労働基準法15条1項)。

(3)変更等明示

 当初明示した労働条件等を変更し、特定し、削除し、又は追加する場合には、改めて明示することが必要となります。
 このうち、変更とは、当初の内容を変更することです。
例:当初、基本給25万円/月と提示していたものを、基本給22万円/月とする。
 特定とは、当初の内容が一定の幅を持たせる内容であった場合に、その範囲内で具体的に特定させることです。

 例:当初、基本給22万円~28万円/月と提示していたところ、基本給25万円/月とする。
 削除とは、当初の内容から削除することです。
 例:当初、基本給25万円/月+職務手当2万円と提示していたところ、基本給25万円/月のみとする。
 追加とは、当初の内容に追加することです。
 例:当初、基本給25万円/月と提示していたところ、基本給25万円/月+職務手当2万円/月とする。

(4)労働条件の明示に当たって遵守すべき事項

一方で、求人者は、労働条件の明示に当たり、以下の対応をなす必要があります。

 明示する労働条件は、虚偽又は誇大な内容としないこと
 始終業時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩時間、休日等について明示するほか、裁量労働制が適用される場合にはその旨を明示すること
 賃金形態、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当等について明示すること。固定残業代を支払う場合は、名称にかかわらず、その計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超えた場合には追加で支払うことを明示すること
 有期労働契約が試用期間の性質を持つ場合、試用期間となる有期労働契約期間中の労働条件を明示すること
 労働条件の水準、範囲等を可能な限り限定すること
 労働条件は、職場環境を含め、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること
 明示する労働条件が変更される可能性がある場合はその旨を明示するとともに、実際に変更された場合には、募集してきた者に対して速やかに知らせること

(5)求人者に対する罰則等

 求人者が虚偽の求人の申込みを行った場合に、罰則の適用を受けることになりました(法66条9号)。
 また、求人者が労働条件等を明示しない場合には、勧告や公表といった指導監督の対象となることになりました(法48条の2~48条の4)。

6.改正による影響

 近時の人手不足の中で、優秀な人材を確保するために、企業は様々な努力をしているところです。しかし、一方で、募集の際に提示した条件が見せかけに過ぎず、それと異なる条件で労働契約を締結するなどのトラブルも後を絶ちません。
 今回の改正は、上記のようなトラブル防止に一定の効果を果たすものと思われますが、企業としても、しっかりと労働条件を明示しないと、公表のリスクにさらされることになりました。
 企業においては、人材募集の際の条件提示の内容を見直すなどして、せっかく確保した優秀な人材が逃げていかないよう、対応していく必要があるといえます。

以上