非上場会社において株式買取請求がなされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する際に非流動性ディスカウントを行うことはできないとされた事例(最高裁平成27年3月26日決定)

弁護士 大村 健

2016年2月1日

1 事案の概要

 本件は、A社株主であるXが、A社を吸収合併消滅会社、Y社を吸収合併存続会社とする吸収合併に反対した上、A社に対して株式買取請求がされ、その価格について協議が整わないため、会社法786条2項に基づき、価格決定の申し立てがなされた事案です。

2 主な争点

 A社は非上場会社であるところ、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法をいう。)を用いて株式の買取価格を決定する場合に、当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(以下「非流動性ディスカウント」といいます。)を行うことができるか否かが主な争点です。

 原審(札幌高裁平成26年9月25日決定)は、吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には、吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ、A社の株式の換価は困難であり、このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるから、収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合であっても非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。

3 判決要旨

 最高裁は、概要下記の通りの判決を下しました。

 会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は、吸収合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い、その合理的な裁量によって「公正な価格」を形成すべきものであるところ(最高裁平成23年4月19日決定)、非上場会社の株式の価格の算定については、様々な評価手法が存在するが、どのような場合にどの評価手法を用いるかについては、裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。

 しかしながら、一定の評価手法を合理的であるとして、当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において、その評価手法の内容、性格等からして、考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。

 非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ、収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである。

 したがって、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。

4 考察

 上場会社の株式と比較して、非上場会社の株式の流動性は低いです。非上場会社の株式を換金しようとするときには追加的なコストがかかるため、非上場会社の株価は上場会社よりも低く評価されます。これを非流動性ディスカウントと呼ばれています(日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」52頁)。

 本件の鑑定人は、実務上、その数値は20%~30%と述べ、本件では25%減価するとしています。

 取引目的の評価において、非流動性ディスカウントが許されることは特に問題はありませんが、本件のように株式買取請求がなされた場合に非流動性ディスカウントを行ってよいかどうかは裁判上でも学説上でも争いがありました。

 このような中で、最高裁判所が初めてこの点につき判断したものであり、非常に重要です。

 ただ、最高裁は、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合にと限定していることから他の評価方法の場合にどうかは判断しておらず、今後の実務にどのように影響していくかは注目されるところです。

以上