商標法改正~「色彩」・「音」の商標の追加~

1 「色彩」や「音」が商標として保護されることになります

 商標法の改正により、我が国において、「色彩」(輪郭のない単なる色彩のみのことをいいます。以下同じです。)や「音」が商標として保護されることになります(以下では、改正前の商標法を指す意味で「現行法」、改正後の商標法を指す意味で「改正法」、改正前後で影響のない場合には単に「商標法」といいます。)。
 米国や欧州では、これらはすでに商標として保護されており、我が国でも保護のニーズが高まっていることから、今回の改正に至りました。

 今回の商標法改正全体の概要は以下の通りです。

  • ① 商標法の保護対象の拡充等

    • ・商標法の保護対象に、色彩の商標及び音の商標を追加
    • ・上記保護対象の追加に伴い、必要な登録要件や出願手続等の規定の整備
  • ② 地域団体商標の登録主体の拡充(平成26年8月1日に施行済)

  •  地域団体商標の登録主体として、「商工会」、「商工会議所」及び「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人」を追加

 本稿では、①部分について解説します。

 なお、改正法は平成26年5月14日に公布済みであり、①部分は遅くとも平成27年5月14日までに施行予定となっており(※)、②部分は平成26年8月1日にすでに施行済みです。

     具体的には、公布の日(平成26年5月14日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される予定とされています。

2 「色彩」・「音」の商標の具体例

 先述のとおり、すでに海外では「色彩」や「音」は商標として保護されています。
そこで、以下、海外での登録例をご紹介します。

  • ① 「色彩」の商標の具体例

    • ・株式会社トンボ鉛筆の青・白・黒の平行線が並ぶ色彩パターン
    • ・7-Eleven, Inc.(株式会社セブン-イレブン・ジャパンの子会社)の白を背景にオレンジ色、緑色、赤色の三本の平行線が入る色彩パターン
  • ② 「音」の商標の具体例

    • ・米国マイクロソフト社のパソコン用OS「ウィンドウズ」の起動音
    • ・久光製薬株式会社のCMの終盤に流れる「HI・SA・MI・TSU」の音

3 こんな「色彩」・「音」は商標として保護されません

 商標として保護されない「色彩」や「音」としては以下のようなものが挙げられています。

  1.  自他商品・役務識別力(自分の商品あるいは役務と、他人の商品あるいは役務とを区別する力)のない「色彩」「音」(改正法3条1項3号参照)

     ex

    • ・単一の色彩や専ら商品等の機能又は魅力(美観)の向上のために使用される色彩
    • ・石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラ音のように、商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等のありふれている音、又はクラシック音楽として認識される音
      (産業構造審議会知的財産分科会作成『新しいタイプの商標の保護等のための商標制度の在り方について』8頁参照)

     ただし、使用実績により、自他商品・役務識別力を獲得するに至った商標については、保護される可能性があることにご注意ください(商標法3条2項参照)。

     ex

     海外において、単色であっても使用実績により商標登録が認められた例として、UPS社(United Parcel Service of America, Inc)のチョコレートブラウン色、Christian Louboutinの(靴底の色として有名な)赤色等があります。

  2.  商品が当然に備える色彩や発する音といった商品若しくは商品の包装又は役務の特徴(※)のみからなる商標(改正法4条1項18号参照)

     ex

     商品「自動車のタイヤ」の黒の色彩、役務「焼肉の提供」における肉の焼ける音
    (特許庁総務部総務課制度審議室編『平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』166頁参照)

    •  法文では、そのような「特徴」のうち政令が定めるものと規定されています。
    •  他人の著作権等との関係について
       特に音の商標との関係で問題になるのが、著作権又は著作隣接権(実演家の権利、レコード製作者の権利、放送事業者の権利及び有線放送事業者の権利)との抵触です。
       一般的に、単に他人の著作権と抵触すること自体は商標登録出願の拒絶理由には該当しないと考えられており、この考えは改正法でも変わらないものと思われます(改正法4条1項参照)。
       しかし、仮に商標登録をすることができたとしても、当該登録商標の使用態様が、当該登録商標の出願日以前に生じた著作権又は著作隣接権と抵触する場合には、その使用態様によって登録商標を使用することができないとされています(改正法29条参照)。
       したがって、特に音の商標についての商標登録出願に際しては、あらかじめ、他人の著作権又は著作者隣接権の存在に留意することが必要になります。

4 出願手続について

「色彩」や「音」の商標登録出願が認められることになるのに伴い、出願手続に関する規定も改正されます。
 主に、特徴的な部分を以下ご紹介します。

  1. ① 「色彩」や「音」の商標登録が認められるのは、改正法施行後の出願分のみであり、改正法施行前の出願分は、出願審査の途中で改正法が施行された場合でも「色彩」「音」の商標として登録されることはありません(改正法附則5条1項)。
  2. ② 「色彩」や「音」の商標を出願する場合には、その旨を願書に記載しなければなりません(改正法5条2項)。
  3. ③ 「色彩」の商標については、願書に商標の詳細な説明を記載しなければならず、「音」の商標については、その音を記録した記録媒体等、経済産業省令で定められる物件を添付しなければならないとされています(改正法5条4項、前掲『平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』168頁参照)。
     この「記載」や「物件」は、商標登録を受けようとする商標を特定するものでなければなりません(改正法5条5項)。

 主な部分は以上の通りですが、今後経済産業省令等によって具体的に規定されていく部分等もあるため、実際に出願される際には、専門家等にご相談されることをおすすめします。

 なお、改正法施行後、何者かの商標登録により、既に用いている「色彩」や「音」の商標が使えなくなるという事態が起きるようにも思われますが、そのような事態を避けるため、改正法附則5条3項及び5項は、改正法施行後も継続してそれらの商標を使用することができる権利(以下、「継続的使用権」といいます。)を概ね以下のように定めています。

  1. ① 改正法の施行前から不正競争の目的でなく、他人の登録商標に係る指定商品等についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者には、改正法の施行の際現にその商標の使用をして業務を行っている地理的範囲内において、継続的使用権が認められるものとされています(3項)。
  2. ② ①の継続的使用権が認められる場合で、使用に係る商標が既に需要者の間に広く認識されているものである場合には、当該地理的範囲を超えて継続的使用権が認められるものとされています(5項)。

 もっとも、継続的使用権が制度的に設けられているとはいえ、当該具体的な「色彩」や「音」に継続的使用権が認められるかは、最終的には裁判所の判断によることになるため、安易に継続的使用権に期待することは避けるべきです。
 したがって、確実に不安を解消したいという場合には、やはり、改正法施行後できるだけ早い段階で(※)商標登録出願をすることをおすすめします。

  •  日本の商標法においては、先願主義が採られているためです。
    先願主義とは、大まかに表現すると、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができるという原則をいいます(商標法8条1項、4条1項11号参照)。

5 改正による影響

 音や色彩というものは、使用言語に関係なく、全世界の消費者に同じように訴えかけることができるものです。
 そのため、特に、国際的に統一したブランドを展開するうえでは、音や色彩がブランドイメージの構築において担う役割は大きいものと思われます。
 そして、そもそも、音や色彩といった比較的単純な情報についての独占権が認められるということは、ブランドの維持(保護)にとって強力な武器となります。
 例えば、当該ブランドの色彩について商標登録しておけば、ロゴの盗用がなくとも、色彩を盗用してさえいれば、海賊版を取り締まることができる可能性があるということになります。
 このように、今回の改正がブランド展開・維持に与える影響は、小さくないように思われます。
 商標についてのご相談を含め、ブランド展開・維持等の法務についてお悩み等ございましたら、是非お気軽にご相談ください。

以上