独占禁止法の改正~適正手続の実現~

第1 はじめに

 平成25年12月7日、改正独占禁止法が成立しました(以下では、改正前の独占禁止法を「現行法」、改正後の独占禁止法を「改正法」といいます。)。
 今回の改正の目玉は、何といっても公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)による審判制度の廃止と、それに伴う取消訴訟への移行でしょう。現行法では、公取委自らが独占禁止法違反の審査を行い、審査結果に基づき公取委が決定した処分(排除措置命令・課徴金納付命令)に不服がある場合には、公取委自らが処分の妥当性を審判において審理する仕組みとなっています(審判に不服がある場合に初めて東京高等裁判所に出訴できます。)。
 この点につき、以前から、公取委自らが審査機関と審判機関を兼ねている点(刑事訴訟に例えれば、検察官が捜査を行った後自ら判決を下すのに等しいものです。)が、中立性・公正性の観点から疑問視されていたところ、今回の改正で是正が図られたことになります。
 以下では、上記の点を含め、今回の改正のポイントをご紹介します。

  •  改正法は公布日(平成25年12月13日)から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日(本稿執筆時点では当該政令は未制定)に施行され、施行日時点で既に現行法に基づく事前手続の開始通知の送付が行われている場合には、現行法による審判制度の適用対象となります(改正法附則第2条)。

第2 改正法の内容

1 審判手続の廃止及び取消訴訟への移行

(1)裁判所における専門性の確保

 今回の改正では、前述の公取委自らが行う審判制度は廃止され、公取委による処分に対する不服審査は、裁判所における取消訴訟によることとなりました。
 ただし、審理の対象が独占禁止法違反という複雑な経済事案であることから、裁判所の専門性を確保する必要がある点に鑑み、通常の行政処分に対する取消訴訟とは異なり、①第1審・控訴審はそれぞれ東京地方裁判所・東京高等裁判所の専属管轄とするとともに(改正法85条1号、87条)、②3人から5人の裁判官で構成される合議体により審理及び裁判を行う(改正法86条、87条)こととされています。
 もっとも、このような東京一極集中の制度は、地方の事業者の利便性に反するとの指摘もあるところです。

(2)実質的証拠法則・新証拠提出制限の廃止

現行法では、複雑な経済事案に対して公取委の持つ高い専門性とそれに基づく判断を尊重するという趣旨から、①公取委の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠がある場合には裁判所を拘束し(実質的証拠法則。現行法80条)、②裁判における新たな証拠の申出は、公取委が正当な理由なく証拠採用しなかった等の一定の場合を除き許されない(新証拠提出制限。現行法81条)という制度が採用されていました。
 しかし、審判制度の廃止に伴い、これらの制度は廃止されました。

2 意見聴取手続の拡充

 改正法では、適正手続の確保の観点から、排除措置命令等に係る意見聴取手続(公取委が処分を行う前に、事業者の言い分を聴取する手続きです。)を拡充しています。

 すなわち、①意見聴取手続を管理する手続管理官(指定職員)の制度を新設し、事前説明手続を監督し経過を公取委に報告させることとしたほか(改正法53条等)、②公取委が認定した事実を立証する証拠については、事業者に閲覧・謄写を認める(改正法52条)こととしました。
 しかしながら、①については、手続管理官の中立性・独立性の保障が不十分であるとの指摘があり、さらに、②については、閲覧・謄写の範囲が「公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」に限定され(改正法52条5項参照)、かつ、謄写については事業者もしくはその従業員が提出したもの又はそれらの供述録取書等に限定されていることから(改正法52条1項括弧書)、なお不十分であるとの指摘があります(取消訴訟における証拠収集については後述します。)。

第3 改正後の展望

 改正法施行後の取消訴訟の実務につき、排除措置命令等の処分を受けた事業者側の観点から、2点指摘したいと思います。

1 違法性の立証責任


 取消訴訟においては、裁判所による審理の対象は「行政処分の違法性一般」であると理解されていますが、処分の違法性の立証責任を事業者が負うのか、公取委が負うのかという点については、以前から見解が対立していたところです。
 この点、現時点でも、確立した見解があるわけではないものの、行政処分の性質、行政処分の根拠法の趣旨・目的、条文構造、当事者間の公平等に照らして、個別具体的に判断すべきというのが有力な見解です。
 公取委による排除措置命令等の処分は、高度な専門性に基づく審査・判断の結果なされるものですから、事業者がその違法性を立証するのは極めて困難でしょう。したがって、排除措置命令等の処分の違法性は、処分をした公取委が立証責任を負うと解すべきです(実際にも、現行法下における審判手続及び審決取消訴訟では、立証責任は公取委側が負っていると解するのが一般的なようです。)。

2 証拠収集方法


 改正法では、一定の証拠の閲覧・謄写が認められた一方で、前述のとおり、「公取委が認定した事実を立証するための証拠」以外の証拠や、意見聴取手続で作成される調書や報告書等の謄写は認められていません。
 この点は、行政事件訴訟法7条が民事訴訟法を準用しているため、文書提出命令(民事訴訟法223条)を活用することが考えられます。また、行政事件訴訟法では、裁判所が被告行政庁その他の行政庁に対して、処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができるため(行政事件訴訟法23条の2)、この規定を活用することも考えられます。

 公取委の処分につき不服がある場合等には、当事務所にお気軽にご相談ください。

以上