「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の概要と平成25年改訂のポイント

1 はじめに

 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「本準則」といいます)とは、電子商取引(インターネット通販、インターネット・オークション等)や情報財取引(ソフトウェアに関する諸契約等)に関する様々な法的問題点について、民法、電子契約法、著作権法等の関連諸法令がどのように解釈され適用されるのかを明らかにした、経済産業省作成のガイドラインの一つです。電子商取引や情報財取引には様々な類型がありますが、本準則では、取引類型ごとに、具体的な裁判例を引用する等しながら法的問題点とそれへの考え方について解説がなされています。
 本準則は、平成14年3月の策定以降、情報通信技術の進展にともない幾度も改訂が加えられてきていますが、平成25年9月、新たな裁判例の追加や法改正への対応を中心とした改訂が改めてなされました。ここでは、本準則の内容について一通り概観した上、平成25年9月改正のポイントについて、ご説明します。

2 本準則の概要

 本準則は、大きく、①電子商取引に関する論点、②インターネット上の掲示・利用等に関する論点、③情報財の取引等に関する論点、④国境を越えた取引等に関する論点、で構成されています。

  1. ① 電子商取引に関する論点
     電子商取引については、旧来的な相対取引とは異なるオンライン契約における一般的な留意事項が網羅されています。例えば、契約の成立時期が異なる点、消費者による操作ミスを防ぐための確認画面の設置等を怠った場合には消費者による錯誤無効の主張を争いにくくなる点(消費者の重過失を主張できなくなる)等、電子契約法(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)上の特則について説明しています。
     その他、Webサイトの利用規約を契約に組み入れるための要件や一方的に変更することの可否、なりすまし行為の効果が本人に帰属するかの問題、ネットショッピングモールでのトラブルにおけるモール運営者の法的責任の問題、インターネット・オークションにまつわる法的問題(各当事者の法律関係、契約の成立時期、特約の有効性、運営者の法的責任、留意すべき関係諸法令等)といった、電子商取引の類型に応じた法的問題についての考え方が整理されています。
  2. ② インターネット上の情報の掲示・利用等に関する論点
     インターネット上の情報の掲示・利用等については、CGMサービス上のトラブルにおけるサービス事業者の法的責任、Web上の広告に関する様々な法規制の概要、インターネット上での肖像権やパブリシティ権(権利侵害となる要件等)、著作権を用いる際の法的問題(サムネイル画像の利用、写りこみ問題等)といった、情報の掲示・利用の類型に応じた法的問題点についての考え方が整理されています。
  3. ③ 情報財の取引等に関する論点
     ソフトウェア等の情報財に関する取引について、ライセンス契約を中心に、返品の可否、不当条項の問題、終了時の法的問題等について考え方が説明されています。また、プログラムについてのベンダーの担保責任、SaaS・ASPにおけるSLAの法的位置づけ、ソフトウェアをライセンシー社内外の関係者が利用することの法的問題、データベースから取り出された情報・データの扱い等の法的問題について、各類型ごとに考え方が示されています。
  4. ④ 国境を越えた取引等に関する論点
     国境を越えた渉外取引におけるどの国に裁判管轄があり(国際裁判管轄の問題)、どの国の法律が適用されるのか(準拠法の問題)、CtoC取引とBtoC取引それぞれに分けて、法律上の考え方について説明されています。特に、BtoC取引においては準拠法の指定があっても消費者の居住地法の強行法規が適用される場合があるという点は留意が必要です。
     また、インターネット上で行われた不法行為(名誉毀損、信用毀損等)の国際裁判管轄や準拠法についても解説されています。
     その他、外国で得た勝訴判決に基づいて我が国で強制執行するための手続についても解説されています。

3 主な改訂点

 本準則の平成25年改訂の主なポイントは、以下のとおりです。

  1. ① パブリシティ権侵害の類型の追記修正
     一般に著名人の肖像等には「パブリシティ権」(肖像等の顧客吸引力を利用する権利)が認められるとされています。ただ、法律上明確な定義が無いため、どのような場合にパブリシティ権侵害になるのか、あいまいとの指摘がなされていました。
     従前、本準則においてもパブリシティ権侵害について言及されていましたが、統一的な判断基準が無かったため、下級審裁判例を紹介するにとどまっていました。
     その後この点について、平成24年2月2日最高裁判決において、「肖像等に顧客吸引力を有する者は・・・その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきであ」り、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となる」と、パブリシティ権侵害が成立するには「専ら」顧客吸引力の利用が目的であるという要件(「専ら」要件)が必要であると判断しました(ピンク・レディー事件)。
     これを受けて、本準則においても、上記最高裁判決で示されたパブリシティ権侵害の3類型が具体的に示され、これによりパブリシティ権侵害となる場面が限定され、明確化されたものと理解できるとの考え方が示されました。また、パブリシティ権の侵害基準が明確化されたことに合わせて、物についてのパブリシティ権は認められないとの従来の考え方(平成16年2月13日最高裁判決(ギャロップレーサー事件))も付記されました。
  2. ② ネットショッピングモール運営者、ホスティング事業者の法的責任についての裁判例の追記
     ネットショッピングモールやCGMサイトにおいて権利侵害行為が行われた場合の当該サービス運営者等の法的責任について、本準則では従前、原則として責任は負わないとしつつ、例外的に、利用者が当該侵害行為の主体を運営者と誤信してもやむを得ない外観があるとか、侵害行為を知りながら放置する等、一定の場合には法的責任を負う場合があるとの考え方が示されていました。
     その後この点について、平成24年2月14日知財高裁判決において、当該侵害行為を知りながら一定期間放置する等の事情がある場合に、運営者が侵害行為の主体として法的責任を負う場合があることを認める判断をしました(チュッパチャップス事件)。
     これを受けて、本準則でも、従前の考え方に沿った1つの実例として上記知財高裁判決を追記して紹介され、本準則の考え方が実務に沿ったものであることがより明らかとされています。
  3. ③ 著作権法の平成24年改正への対応
     平成24年に著作権法が改正され、これを受けて本準則でも適宜修正がなされています。
    • ア いわゆる「写りこみ」(付随対象著作物としての利用)が著作権侵害にならない旨の規定が新設されました(著作権法第30条の2)。
       本準則では、従前より、著作物の写りこみ(写真等を撮影した際に背景に他人の著作物が写りこむこと)について、全て著作権侵害とするのは行き過ぎとして、一定の場合には著作権侵害に当たらないとの考え方が示されていました。この点について今回の改正を受け、著作権侵害とならない「写りこみ」として認められるための要件についての記載が明確化されました。
    • イ インターネット上でのサービス開発・提供等に不可欠な複製行為が著作権侵害にならない旨の規定が新設されました(著作権法第47条の9)。
       本準則では、従前、インターネット上の著作物を無許諾で利用できる場合として、情報検索サービス上での複製、情報解析行為のための複製等(google、yahoo!でのキャッシュ利用等)を挙げていましたが、上記改正を受け、これらに加えて、インターネット上でのサービス(インターネット掲示板、動画共有サイト、SNS等)において、ユーザーが投稿したコンテンツのファイル形式を統一したり、データ整理等するために必要な複製行為については無許諾で行うことが可能となったことが追記されました。

4 最後に

 以上のとおり、本準則は電子商取引と情報財取引についての様々な類型を広くフォローアップするものであり、法解釈における重要な指針となるものです。今回の改訂範囲自体は全体のごく一部に過ぎません。ただ、情報通信技術は日進月歩であり、今後も新しいビジネスモデルに対応した改訂が順次なされていくものと思われます(たとえばすでに現在、クラウドサービス、プラットフォームビジネス、デジタルコンテンツの3テーマについて将来的に本準則に盛り込むことを想定した研究が進められています)。
 本記事を機会に、本準則を改めて一読し、今後の改正についてもフォローすることで、情報通信技術関連のビジネスモデルに関する法的問題等について全般的・横断的な理解を深めることは非常に有益です。
 本準則の内容や改訂状況、あるいは本準則に照らした情報通信技術関連の新たなビジネスモデルの法的リスク等についてご不明な点等あれば、当事務所にお気軽にご相談ください。

以上