経営者保証に関するガイドラインの公表

1 はじめに

 中小企業が金融機関から融資を受けるにあたり、金融機関は、その代表者を連帯保証人に据えるよう求める運用を長らく続けてきました。現在では、およそ8割以上が代表者保証のある借入れといわれています。
 代表者(経営者)が連帯保証人となることは、経営に対し責任感を持たせることができるという効果がある一方で、経営者が思い切った事業展開に舵を切ることをためらったり、窮状時に早期の事業再生をためらったりする要因となっている側面があることも否めません。
 このため、平成25年1月に、中小企業庁と金融庁が共同で「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を発足させ、その研究会で、中小企業における経営者保証について、契約時の課題と履行時等における課題の整理が進められました。そして、平成25年12月5日、中小企業の経営者保証に関する契約時及び履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応の準則として、「経営者保証に関するガイドライン」が策定・公表されました。
 平成26年2月1日から実施されるものですが、それ以前に契約した保証契約にも適用できることになっていますので、今後本ガイドラインを有効に活用することが期待されます。

2 中小企業が経営者保証なしで資金調達をしようとする場合

 本ガイドラインによれば、一定の状況を満たす中小企業について、経営者を保証人とすることなく融資を受けられる可能性が高まりました。一定の状況というのは、以下のとおりです。

  • (1)

    企業と経営者の関係が明確に区分できていること

     企業の業務、経理、資産所有等に関し、企業と経営者の関係を明確に区分し、企業と経営者との間の資金のやり取りを適切な範囲にとどめるような体制を構築することが求められています。例えば、経営者が企業から必要以上の役員報酬を得たり、経営者が企業から必要のない資金を借り入れたりしていれば、この点を満たさないことになります。

  • (2)

    一定の信用力を有していること

     経営者を保証人とすることで、中小企業の信用力が補完されるという側面があることは否定できません。そのため、経営者を保証人としなくとも企業に一定の信用力が備わっている必要があるといえます。例えば、業績を向上させることが考えられます。業績が向上すれば、返済能力が高まりますので、現状内部留保に乏しくても、金融機関としては、順調な返済を期待できるためです。

  • (3)

    経営の透明性が確保されていること

     金融機関から、資産等の状況、事業計画の進捗状況等を明らかにするよう求められた際に、企業側が正確かつ丁寧に、信頼性の高い情報を開示、説明することが必要とされます。例えば、年1回の決算報告のほか、定期的に、試算表や資金繰り表等を提出し、企業の状況を報告することが考えられます。なお、情報の信頼性を高めるために、外部専門家による検証を経た情報を提供することが望ましいとされています。

 ちなみに、事業承継にあたり、保証契約の存在が支障となるケースもあることから、既に存在している保証契約を見直したり、既に存在している保証契約を解除した上で新たに経営者保証なく借り入れをしたりしようとする場合にも、上記と同様の経営状況にあれば、金融機関として真摯に検討することとされています。

3 保証債務の整理

 本ガイドラインでは、企業の業績が悪化しても早期再生を促すべく、保証債務の整理にあたり、保証人の手元に残せる資産の範囲について言及している個所があります。これにより、金融機関は、一定の経済合理性が認められる場合には、破産手続における自由財産の範囲を超えて、資産を保証人の手元に残すことを容認する余地ができ、経営者も再起を図りやすくなる効果が期待されます。

  1. (1)金融機関は、債務整理の手続が再生型の場合、その再生型手続における弁済計画での回収見込み額が、破産手続を行った場合の回収見込み額を上回るものであれば、経済合理性ありと判断します。これに対し、債務整理の手続が清算型の場合は、現時点での回収見込み額が、清算手続が遅延した場合の将来時点(最大で3年後)における回収見込み額を上回るのであれば、経済合理性ありと判断します。
  2. (2)この経済合理性がある場合であれば、金融機関は、債務整理手続の中で、保証人(経営者)に対し、破産手続における自由財産(99万円)を超えて資産を保証人の手元に残すことを認める方向で検討することになります。これにより、例えば現預金については、自由財産として認められる99万円のほか、一定期間の生計費として、雇用保険の給付期間(90日~最大330日)と月額33万円とを掛け合わせた額を手元に残すことが可能になることがあります。また、自宅についても華美でなければ手元に残すことが可能になることがあります。

4 おわりに

 企業向け融資において経営者が個人保証をしていた結果、企業が破たんすれば、経営者も破たんするとの構図がありましたが、本ガイドラインの適切な運用が図られればこの構図が崩れ、経営者が事業に失敗しても身ぐるみはがされることなく、早期に経済的再起を図ったうえで再チャレンジできるようになります。そのため、企業側が本ガイドラインに即して対応することはもちろんですが、金融機関も再チャレンジに向けた環境整備のため、本ガイドラインに即して柔軟な検討を進めることが期待されます。

以上