インターネットショッピングモール内での出店者による商標権侵害行為について、モール運営者も行為主体として責任を問われ得ることを判示した事案(当該事案では結論として責任を否定)
(知財高裁平成24年2月14日判決)

1 事案の概要

 本件は、楽天株式会社(以下「楽天」といいます)が運営するインターネット上の仮想ショッピングモール「楽天市場」において、ある出店者が、原告会社が保有する商標「ChupaChups(チュッパチャップス)」(図形商標)を無断で使用した商品(以下「本件違法商品」といいます)を販売等している点について、当該出店者だけでなく、モール運営者である楽天においても商標権侵害の責任を負うべきとして、楽天に対し、損害賠償等が請求された事案です。
 一審判決(東京地方裁判所平成22年8月31日)では、本件違法商品の販売主体は、出店者であり、楽天ではないとして、原告会社の請求は棄却されました。本件は、この判決に対して原告が不服を申し立てた控訴審であり、知財高裁がどのような判断を下すかが注目されました。

2 主な争点

(1)争点の概要

 本件では、本件違法商品の直接の販売主体である「出店者」自身について、商標権侵害が成立することについては、当事者間に争いはありませんでした。
 その上で、直接の販売主体ではない「楽天」においても商標権侵害の責任を負うかという観点から、①商標権侵害は、当該商標を「使用」(商標法2条3項)する場合に限られるのか、②出店者ではないサイト運営者も商標権侵害の「主体」たり得るのか、といった点が争点となりました。

(2)原告会社の主張

 原告会社は、争点①について、商標権侵害の典型は、他者が無断で当該商標を「使用」することだが、その他の類型の行為であっても、商標の識別力を害する行為であれば、いずれも商標権侵害にあたると主張しました。
 また、争点②について、主に以下のような主張をし、サイト運営者である楽天自身も商標権侵害の「主体」であると主張しました。

  1. 「販売主体は誰か」は、単に事実行為を誰がしたかではなく、誰が責任を負うべきかという規範的評価も踏まえて、判断されるべき
  2. 楽天が運営者として楽天市場という「場」を提供しなければ、本件違法商品が販売等されることはなかった
  3. 楽天は、その管理・支配下において、モール内の情報を選別、提供し、出店者にも指示する等しており、顧客による商品購入の一連の過程においても枢要な行為を行っている
  4. 楽天は、顧客への具体的な売買等に関与している点で、場を課すだけのショッピングモールや、サーバ領域の一部を貸し出すだけのホスティングサービス等とも異なるから、これらと同等に扱うことはできない
  5. 楽天は、売上げに対する従量制で「システム使用料」を徴収することで、実質的に商品代金の分配を受けており、利益を得ている

(3)楽天の主張

 これに対し、楽天は、争点①について、商標権侵害となるのは、あくまで当該商標の「使用」に限られるのであり、直接の販売主体ではなく、商標を「使用」した訳ではない楽天は責任を負わない旨を主張しました。
 また、争点②についても、主に以下のような主張をし、サイト運営者に過ぎない楽天は商標権侵害の「主体」ではないと主張しました。

  1. 楽天は、出店者に対し、取引の「場」を提供しているに過ぎない。本件違法商品の販売主体はあくまで「出店者」である
  2. 楽天による出店者の審査は「場」を提供する相手として相応しいかという観点からの審査に過ぎないし、商品の事前審査もしていないし、出品された商品の事後的な削除も困難
  3. 楽天は商品が違法かどうかを判断する情報を有しない一方、原告会社は出店者に対して直接削除を求める等の権利行使が可能なのだから、(行為主体であるとの前提で)違法商品を探索し、違法性を確認し、これを除去するという本来商標権者が自ら行うべき措置を行うべき義務を、楽天に対して課すのは不当
  4. システム使用料について、不動産業者は売上げ歩合賃料での契約を締結していることが多く、従量制であることをもって販売主体性が肯定される理由にはならない

3 判決の要旨

(1)争点①(商標権侵害は、当該商標を「使用」する場合に限られるのかについて)

 この点については、裁判所は、商標権侵害は、商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合には限られるとまで解する必要はないと、原告会社主張に沿った判示をしました。

(2)争点②(出店者自身ではない商標権侵害の「主体」が誰か)

 また、裁判所は、争点①についての上記理解を前提に、商標権侵害の「主体」が誰かについては、商標法2条3項に規定する「使用」している場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能であるとし、この点でも主体性は規範的に評価されるべきとの原告会社の主張に沿った判示をしました。
 その上で、サイト運営者に以下の事情が認められる場合には、合理的期間内に侵害内容のWebページからの削除がなされない限り、合理的期間経過以降、サイト運営者も(商標権侵害の主体として)出店者に対するのと同様の損害賠償責任等を負う旨、判示しました。

  1. 単に出店者によるWebページの環境等を整備するに留まらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行っていること
  2. 出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けていること
  3. 出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当な理由があること

 また、Webページ運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聞く等して、その侵害の有無を速やかに調査すべきであるとも判示しました。

(3)結論

 ただ、裁判所は、上記判断は示しつつも、本件への適用については、楽天は、商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内に本件違法商品に関する情報を削除しており、合理的期間内に対応しているので、結論としては、商標権侵害は認められないとしました。

4 考察

  1. (1)

     Webサイト上で違法行為が行われた場合、当該行為を行った当人が責任を負うのは当然ですが、それに加えて、当該サイトの運営者まで同様の責任を負うかについては、商標権侵害に限らず、名誉毀損、著作権侵害等においても、以前から争いがありました。
     名誉毀損については、サイト運営者に当該違法行為の削除権限があることを前提に、少なくともサイト運営者が当該違法行為の存在を知って以降は、被害拡大を防ぐための有効適切な救済手段として、条理に基づく当該違法行為を削除すべき義務があるとして、これを怠ったサイト運営者に対する損害賠償請求を認めた裁判例があります(東京高裁平成14年12月25日判決(動物病院事件)等)。
     著作権侵害についても、主体性判断は、行為の対象、方法、関与の内容、程度等の諸要素を考慮して判断すべきであるとした上、サービス運営者が単に環境等を整備するに留まらず、その管理、支配下において、侵害行為における枢要な行為をしている場合には、当該運営者を複製の主体といえると判示されています(最高裁平成23年1月20日(ロクラクⅡ事件)等)。
     このように、裁判実務の趨勢は、一定の条件の下ではありますが、サイト運営者にもサイト内での違法行為について責任を問う傾向にあります。

  2. (2)

     今回の知財高裁判決は、あくまでサイト運営者が出店者を管理・支配している等の事情があることを前提としたものではありますが、商標権侵害についても、名誉毀損や著作権侵害と同様、少なくとも当該違法行為を知って以降は、速やかな対応をとらずこれを放置すると、サイト運営者自身も責任が問われる場合がある旨を判示したものであり、重要です。
     特に、対応の仕方として具体的に、指摘を受けた際は出店者に対する意見聴取等、侵害の有無の調査をすべきと判示している点も、注目です。例えば、プロバイダ(サイト運営者等)の損害賠償責任の範囲を規律するプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)では、発信者(行為者)への意見照会について記載がありますが、義務とまではされていません。しかし、本件のようにサイト運営者に出店者(サイト利用者)に対する一定の管理・支配性が認められる場合には、あくまで当該情報の存在を知って以降の話ではありますが、サイト運営者において事実調査等の積極的な対応を行うよう求められることになります。この点は、今後のサイト運営実務に少なからず影響を及ぼすのではないかと考えます。

  3. (3)

     ただ、現実には、然るべき調査を行っても、なお、違法と言い得るかどうか、判断に迷うという事例も少なくないと思われます。その場合、削除を拒むことは権利者から責任追及を受ける恐れがある一方、安易に削除することも、後日、出店者等のサイト利用者から損害賠償請求を受ける恐れがあります。
    この点の板挟み状態のリスクを解消するためには、出店者等のサイト利用者との間の利用規約において、サイト運営者に広範な削除権限を認め、かつ、当該削除により出店者等のサイト利用者が被った損害についての免責規定も置く等の手当てをすることが有効です。

以上