労働契約法の改正
(無期労働契約への転換ルールの制定を中心に)

1 はじめに

 本年(平成24年)8月10日に、労働契約法の一部を改正する法律が公布されています。
 この改正法においては、従来存在しなかったルールが新たに設けられるなどしており、企業を経営するに当たっては、改正法の趣旨や内容を適切に理解しておく必要があるといえます。
 そこで、以下、改正点を中心に説明していきます。

2 改正法の目的

 わが国においては、不況等による業績不振や厳格な解雇規制の存在のほか、労働者側の意向も踏まえ、雇用期間を定めない正社員のほか、雇用期間を定める雇用形態(パート、派遣など)も設けられており、雇用形態は多様化している状況にあります。
 このうち、雇用期間を定める有期労働契約で働く人は全国で1200万人にも及ぶと推計されています。また、このような形態で働く人の3割超が、通算5年を超えて有期労働契約を反復更新している実態があるとされます。
 一方で、平成20年に起きたリーマン・ショック以降、業績が急激に悪化した企業において、有期労働契約を締結している人との契約更新を打ち切る事態が頻発しました(雇止め)。
 このような雇止めについては、判例において、一定の場合に無効とするとの考え方が存在していましたが、法律上の明確なルールはありませんでした。
 そこで、今回の改正法では、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、有期労働契約で働く労働者が安心して働き続けられる社会を実現することを目的とした改正がなされています。

3 改正のポイント

(1)概要

 今回の改正点は、以下の3点です。このうち、②については、平成24年8月10日からすでに施行されており、①と③については、平成25年4月1日からの施行が予定されています。

  1. ①無期労働契約への転換
  2. ②雇止め法理の法定化
  3. ③不合理な労働条件の禁止

(2)無期労働契約への転換

 有期労働契約が反復更新されて、通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるとするものです。
 期間の定めのない契約に転換できるとすることにより、雇止めの不安を解消しようとして新たに設けられたルールです。

【ルールの概要及び注意点】

  1. ①同一の使用者との間で
    ※無期労働契約への転換を免れる意図で、派遣形態や請負形態を採用するなどして、労働契約の当事者を形式的に他の者に切り替えても、通算契約期間の計算においては考慮されません。
  2. ②2以上の有期労働契約の
    ※無期労働契約への転換を申し込むには、更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えていることが必要です。そのため、例えば、契約期間が5年を超える契約(労働基準法14条1項参照)が締結されていてもいまだ更新されていないときは、このルールに従った申込みはできません。
  3. ③契約期間を通算して5年を超える労働者が
    ※通算期間5年というのは、この改正法の施行日後に開始する有期労働契約が対象となります。したがって、施行日前に開始している有期労働契約の期間は含まれません。
    ※有期労働契約とその次の有期労働契約との間に、その使用者の下で働いていない期間が6ヶ月以上あるときは、その空白期間よりも前の有期労働契約期間は通算期間のカウントに含めません。
  4. ④現に締結している有期労働契約の契約期間の満了日までの間に、
    ※無期労働契約への転換の申込みは、通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の期間満了日までに行えば足ります。もし、その期間満了日までに申込みの意思表示を行っていなくても、有期労働契約が更新されている場合には、更新後の契約期間満了日までに改めて申込みを行うことができます。
  5. ⑤無期労働契約の申込みの意思表示をなした場合には、
    ※無期労働契約への転換をしないことを更新の条件とするなど、予め労働者に申込みを放棄させることは、公序良俗違反として無効されます。
  6. ⑥使用者はその申込みを承諾したものとみなされ、
  7. ⑦現に締結している有期労働契約の契約期間満了日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立する
    ※無期労働契約の労働条件は、特に定めがない限り、有期労働契約時のものと同一となります。

 なお、無期労働契約への転換の申込みがあった場合で、現に締結している有期労働契約の契約期間満了時点で契約を終了させようとする場合は、無期労働契約がすでに成立しているため、これを終了させることが必要となります。すなわち、この終了は、無期労働契約の解雇に該当することから、当該解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効とされてしまいます。

(3)雇止め法理の法定化

 これまで判例上のルールとされていた雇止め(有期労働契約における契約期間満了を理由とした契約終了)法理が条文化されました。
 雇止め法理の内容は、以下のとおりです。
 有期労働契約のうち、

  1. ①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
  2. または、
  3. ②労働者において、有期労働契約の契約期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの

である場合には、使用者による雇止めに、客観的に合理的な理由の存在と社会通念上の相当性のあることが必要とされ、これらが認められないときには雇止めができず、従前と同一の条件で有期労働契約が更新されることをいいます。
 なお、このルールが適用されるには、労働者から、有期労働契約を更新する旨の申込みが必要となりますが、必ずしも厳格に捉えられておらず、使用者の雇止めの意思表示に反対する内容でも足りるとされます。つまり、使用者が雇止めをする旨告知したことに対して、労働者が「いやだ、困る」という程度でも足りると考えられています。
 また、上記の①や②に該当するか否かは、これまでの裁判例における判断基準と異ならず、「当該雇用の臨時性・常用性」、「更新の回数」、「雇用の通算期間」、「契約期間管理の状況」、「雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無」などを総合的に考慮することになります

(4)不合理な労働条件の禁止

 同一の使用者と労働契約を締結している、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることが禁止されます。
 ここでいう労働条件は、賃金や労働時間等に限られず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、福利厚生など、労働者に対する待遇の一切を含むとされます。
 また、労働条件の相違が不合理であるかどうかは、

  1. ①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
  2. ②当該職務の内容及び配置の変更の範囲
  3. ③その他の事情

を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されます。
 ただし、特に、通勤手当、食堂の利用、安全管理について労働条件を相違させることは、特段の理由がない限り、合理的とは認められないとされる点に留意が必要です。

4 改正による影響

 有期契約労働者がいる企業において、その労働契約期間の管理がより一層重要になったことはいえます。ただ、逆に、通算期間5年を経過する直前の雇止めを誘発する可能性が高まったこともまた否定できないように思われます。
 そうなりますと、雇止めに対する不安を解消しようとする改正法の趣旨が失われてしまうことから、今後は、雇止めの場面における要件該当性(3.(3))を厳格に判断する傾向が出てくる可能性があると思われます。
 また、通算期間が5年を超える有期契約労働者が無期契約労働者になっても、特段の定めがない限り、従前と同一の労働条件が維持されることから、同じ無期契約労働者の中でも異なる労働条件で労務管理をしていかねばならなくなる懸念があります。そのような懸念を回避するために、転換時の労働条件の変更についての規定を設けるかどうか、規定を設けるとしてその内容をどのようにするかを、企業としては検討しておく必要があるように思われます。
 さらに、有期契約労働者と、現に存在している無期契約労働者の労働条件との境界がますます曖昧になり、賃金や教育等の面で両者を区分することの意味がなくなってくるように思われます。そうすると、区分がなお残っていた場合には、不合理な労働条件の設定の禁止(3.(4))に該当するおそれもあるところですが、今回の改正における不合理性の判断基準は、必ずしも明確であるとは言い難いように思われます。
 このように、企業としては難しい対応を迫られることになりそうですが、改正法の目的である働きやすい環境の設定という観点に立って考えていくことが必要ではないかと考えます。

以上