GREEvsDeNA 知財訴訟判決
~携帯電話向け釣りゲームに関し、「魚を引き寄せる動作を行う場面」についての著作権侵害を認めた一方、ゲームの画面遷移や画面構成についての著作権侵害や、不正競争防止法違反は認めなかった事案 (東京地裁平成24年2月23日判決)~

1 事案の概要

 本件は、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」といいます)らが製作・配信していた携帯電話向けゲーム「釣りゲータウン2」(以下「DeNAゲーム」といいます)について、グリー株式会社(以下「GREE」といいます)が、①自社が製作・配信していた携帯電話向けゲーム「釣り★スタ」(以下「GREEゲーム」といいます)の著作権を侵害し、また不正競争防止法違反にも当たる等と主張して、DeNAゲームの差止めや損害賠償等を求めた事案です。

2 主な争点

  1. (1)

     「著作権侵害」が認められるためには、少なくとも著作物と認められる(創作性≒個性が認められる)部分について、同一性が認められること(類似し、原作品の本質的な特徴が感じ取れること)が必要です。
     両ゲームでは、釣りゲームの主要な要素である「魚を引き寄せる動作を行う場面」の表現方法(画面や変化の仕方)について、主に以下のような共通点がありました。

    1. (a)水中を真横から見た状態で描かれている
    2. (b)画面の中央に大きく、三重の同心円が描かれている
    3. (c)魚は黒の魚影で描かれ、釣り糸は魚の口から上の方へ黒い直線で描かれている
    4. (d)釣り針に掛かった魚は頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回る
    5. (e)同心円中の一定の位置に魚影がある時にユーザーが決定キーを押すと、魚を引き寄せやすくなる、等

     裁判では、主として、上記の「魚を引き寄せる動作を行う場面」の表現方法について、①著作物といえるか(創作的か)、②同一性が認められるか(類似し、本質的特徴が感じ取れるか)、が争点となりました。

  2. (2)

     また、素材1個1個は平凡でも、それらの選択や配列の仕方が創作的である場合は、全体として著作物にあたります(著作権法12条1項)。
     そのため本件では、③全体としてのゲームの画面遷移(主要画面の遷移の仕方)や、各画面の構成(素材の選択・配列)についても著作権侵害(上記①②)が認められるか、等も争点となりました。

  3. (3)

     「不正競争防止法違反」の主張は、ユーザーに対してDeNAゲームをGREEゲームと混同させることでユーザーを不当に誘引したという、いわばDeNA側がGREEゲームの人気に「フリーライド(ただ乗り)」したというものです。
     これが認められるためには、少なくともDeNA側が両ゲームを混同させるような表示(商品等を識別する「商品等表示」)を行っていたことが必要です。
     裁判では、DeNA側が、同社ゲームについて、GREEゲームと似通った点のある「魚を引き寄せる動作を行う場面」を宣伝等で表示していたことが、ユーザーにGREEゲームと混同させるものであったか(商品等を識別させる「商品等表示」にあたるか)が争点となりました。

3 判決の要旨

  1. (1)

     著作権侵害の争点①(著作物といえるか)について

     裁判所は、上記(a)~(e)の表現方法について、どの部分(水上、水面、水中)をどのような視点(真上、真横等)から描くか、魚の姿をどのように描くか(魚影、実物等)、釣り針に掛かった魚にどのような動きをさせ、ユーザーが釣り糸をまくタイミングをどのように表現するか(メーター表示、同心円と魚との位置関係等)等、様々な選択肢が考えられる(選択の幅がある)としました。
     その上で、GREEゲームは、数ある選択肢の中から上記(a)~(e)という具体的表現を採用したもので、その点に個性が強く表れている(創作的)として、著作物といえるとしました。
     これに対し、DeNA側は、上記(a)~(e)はいずれも著作権法では保護されない単なるアイデアか、又は平凡かつありふれた表現で創作的とはいえない(著作物とはいえない)と主張しました。
     しかし、裁判所は、「どの程度の大きさの同心円を、水中のどこに配置するか」「魚にどのような動きをさせるか」「釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」等、多数の選択の幅がある中で、上記の具体的な表現方法を採用したもので、単なるアイデアとは言えないとしました。また、上記(a)~(e)のような表現を備えたゲームは以前には存在しないから、平凡かつありふれた表現ともいえないとして、DeNA側の主張を退けました。

  2. (2)

     著作権侵害の争点②(同一性が認められるか)について

     裁判所は、上記(a)~(e)の表現方法について、DeNAゲームの中でも同一性が維持されており(類似しており)、GREEゲームの本質的な特徴を感じ取ることができるとしました。
    その上で、著作物と言える部分について同一性が認められること等から、著作権侵害(翻案権侵害)にあたると判断しました。
     これに対し、DeNA側は、DeNAゲームにはGREEゲームにはない相違点が多数あり、同一とは言えない(本質的な特徴は感じ取れない)等と主張しました。
     しかし、裁判所は、いずれも短時間の特定の場面を付加しただけであったり、表現上の些細な違いや、容易に思い付く演出に過ぎず、同一性を失わせるものではないとして、DeNA側の主張を退けました。

  3. (3)

     著作権侵害の争点③(ゲームの画面遷移等に著作権侵害が認められるか)

     裁判所は、GREEゲームの画面遷移(トップ画面→釣り場選択→キャスティング画面→魚の引き寄せ画面→釣果画面)は、他の携帯電話向け釣りゲームでも同様の流れ(選択・配列)のものが多く、ありふれたもので、創作性は認められない(著作物とはいえない)としました。
     GREEゲームの各画面の構成(素材の選択・配列)についても、アイデアに過ぎなかったり、他社のゲームでもしばしばみられるものであり、携帯電話向けゲームとしての閲覧の容易性・操作等の利便性の観点から、画面構成には様々な制約が存在することも考慮すると、創作性は認められない(著作物とはいえない)としました。
     従って、著作物とはいえないこれらの部分についてDeNAゲームが類似していても、著作権侵害とはならないと判断しました。

  4. (4)

     不正競争防止法違反について

     裁判所は、DeNA側が、ユーザーに対し、DeNAゲームを表示するもの(商品等を識別する「商品等表示」)として用いていたのは、「魚を引き寄せる動作を行う場面」の影像等ではなく、併せて掲載されていた「釣りゲータウン2」のロゴや文字であるとしました。上記「場面」の影像等については、ゲーム内容を紹介するために複数のゲーム画面の一つとして掲載されていたに過ぎず、ユーザーをGREEゲームと混同させるような「商品等表示」には当たらないとし、結論として、不正競争防止法違反には当たらないと判断しました。

  5. (5)

     GREEは、著作権侵害が否定されても、一般の不法行為が成立する場合があるとも主張していましたが、裁判所は、著作権侵害が認められない部分について違法であるとは言えないとして、これを退けました。

     また、両社の課金方法が異なったため、損害額立証の困難を救済するための損害額推定規定(著作権法114条3項)が適用できるかも争点となりましたが、裁判所は、両社が利益を得るための基本的な構造は同じであり、DeNAゲームの配信により、GREEのユーザーが減少し、損害が生じているとして、同規定の適用を認めました。
     その他、GREEは謝罪広告の掲載も求めていましたが、裁判所は、本件では賠償金以上の措置は不要として、これを認めませんでした。

4 考察

  1. (1)

     著作権侵害について

    1.  本件は、昨今爆発的な勢いで普及している携帯電話向けゲーム業界における二大企業の裁判闘争ということで世間の耳目を集めましたが、法的にも、携帯電話向けゲームの著作権侵害については裁判例が少ないため、裁判所がどのような判断を示すのか注目を集めました。
       特に、携帯電話向けゲームの場合、画面サイズや機能面等で様々な制約があるため、表現の幅に限りがあり、どうしても似通ってきてしまう側面があります。そのため、著作権侵害に問うにも限界があるのではないかという意見や、過度な規制は委縮効果を生み業界にとってはマイナスが大きいといった懸念を示す声もありました。本件でもDeNA側は、著作権侵害を否定すべき理由の1つとして、同様の主張をしていました。

    2.  この点に関し、今回、裁判所は、上記のとおり、「魚を引き寄せる動作を行う場面」については表現方法には様々な選択肢があり得る中、敢えて類似した表現方法を用いたゲームを制作した点で、DeNAゲームの著作権侵害を認め、携帯電話向けゲームだからといって特別視はしないことを示しました。
       ただ、一方で、各画面の構成(素材の選択・配列)について著作権侵害を否定する理由の1つとして、携帯電話向けゲームの画面構成には様々な制約があることを挙げており、携帯電話向けゲームについては相対的に表現の幅が狭くなる(そのため著作権侵害は認められにくくなる)場合があり得ることも示しました。

    3.  また、裁判所が本件で「魚を引き寄せる動作を行う場面」に限っての著作権侵害しか認めておらず、ゲームの画面遷移や画面構成といった広い範囲での著作権侵害は否定している点は重要です。
       著作権侵害を認めるということは、いわばその表現方法について著作権者の「独占」を認めるということですが、ゲームの画面遷移や画面構成といったゲームの基幹部分の「独占」が認められますと、業界全体への委縮効果は絶大です。かといって、逆に著作権侵害が一切認められないとなると、開発者のモチベーションは下がらざるを得ず、それも却って業界全体の活力を損ないます。
      その意味において、著作権侵害の対象・範囲が明確に限定された今回の判断は、GREEの開発インセンティブにも配慮しつつ、過度な規制は業界にとってマイナスとの懸念にも十分応え得る内容であり、バランスのとれた判断であると考えます。

    4.  ただ、DeNAゲームには、GREEゲームにはない、よりゲーム性を高めるための様々な工夫が凝らされています。裁判所はいずれも軽微として一蹴しましたが、歴史を振り返れば、過去の様々な産業技術が、先人のアイデアを元に、自身のアイデアを付加して新たな商品・サービスを生み出すという過程を繰り返すことで進展してきたという側面があることは否定できず、DeNA側の行為もその域を出るものではないと見る余地もあります。
       本件についてはDeNA側が即日控訴したとのことですので、引き続き、控訴審での判断が注目されるところです。

  2. (2)

     不正競争防止法違反について

     通常、ユーザーが商品・サービスを選択するに当たって注目する(商品等を識別する「商品等表示」にあたる)のは、その名称(タイトル)です。裁判例上、それ以外の、商品の包装、形状、内容等が「商品等表示」に当たる(二次的な識別機能を獲得する)のは例外的な場合に限られるとされています。
     今回の判決は、DeNAゲームの営業等表示はそのタイトル(ロゴ、文字)であり、その内容に過ぎないゲーム画面は営業等表示には当たらないというものであり、上記の考え方に沿った判断と言えます。

  3. (3)

     その他

     著作権侵害訴訟の場合、損害額の立証が困難なケースが多く、著作権法上の損害額推定規定が適用できるかどうかは非常に重要なテーマです。本件では、細かい違いに拘泥することなく、大枠の利益構造が同様である以上競合関係にあるとの実体的側面を重視した判断をしており、この点も妥当であったと考えます。

以上