建物賃貸借契約の更新料条項の有効性を認めた裁判例
(最高裁平成23年7月15日付判決)

1 はじめに

 建物の賃貸借契約においては、契約更新時に更新料を支払うという更新料特約が結ばれることが多い。この更新料特約について、平成13年4月1日の消費者契約法施行後、同法10条に該当し無効ではないかが争われるようになった。
 消費者契約法10条とは、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とすることを定めた規定である。
 この点につき、高裁レベルでも裁判所の判断が分かれ(無効と判断したものとして大阪高裁平成21年8月27日判決、有効と判断したものとして大阪高裁平成21年10月29日判決)、最高裁の判断が注目されていたところ、最高裁は、平成23年7月15日、以下のような判断を示した。

2 事案の概要

 賃借人Xは、平成15年4月1日、賃貸人Yとの間で、京都市内の共同住宅の一室について、契約期間を1年間、賃料を月額3万8000円、更新料を賃料の2か月分とする賃貸借契約を締結した。
 賃借人Xは、平成16年から平成18年までの毎年2月ころ、3回にわたり、本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし、その都度、賃貸人Yに対し、更新料として7万6000円を支払った。
 そして、賃借人Xは、平成19年4月1日以降も建物の使用を継続したが、更新料7万6000円の支払をしていない。

3 判決要旨

(1)更新料の性質
 更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
(2)更新料条項の消費者契約法10条前段の該当性について
 更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たる。
(3)更新料条項の消費者契約法10条後段の該当性について
 同条後段の該当性については、消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
 更新料条項についてみると、更新料の性質は前記(1)のとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。
 また、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、同条後段には該当しない。
(4)本件へのあてはめ
 本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、更新期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、消費者契約法10条により無効とすることはできない。

4 おわりに

 賃貸借契約における更新料の支払は、実務上ほぼ慣行化しているため、消費者契約法10条を根拠とする無効判決の出現は、賃貸業者に大きな衝撃を与えた。
 最高裁の判断によっては、賃貸借の実務に大きな混乱が生じる可能性があり、その動向に多大な関心が寄せられていたことから、速報としてご紹介した次第である。

以上