過去の新法・新判例

2018年10月01日

eスポーツ×景品表示法
―実際の賞金制ゲーム大会を題材に―

弁護士 前野 孝太朗

1 はじめに


 コンピュータゲームやビデオゲームを使用した勝敗が決せられる競技(いわゆるeスポーツ)をめぐる動きが活発になってきています1
 本年6月には、株式会社Cygamesは、スマートフォン向けカードバトルアプリ「Shadowverse」において、優勝賞金を100万ドルとする賞金制ゲーム大会を開催することを発表し、話題となりました。

 「Shadowverse」は、現在も定期的に賞金制ゲーム大会を開催しており、本年9月16日に決勝戦が行われた「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」の優勝者には賞金400万円が付与されています。
 上記ゲーム大会は、(プロライセンスのない)いわゆる一般人でも出場できる大会であり、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の観点からも、興味深い大会になっています。

 eスポーツに関する法的規制については数多くの論考があり、とりわけ、景品表示法に関する論点については、白石忠志教授の論考2を始めとして、多くの検討・解説がなされていますが、具体的なゲーム大会の事例を当てはめて検討する例は未だ少ないようです。

 そこで、本稿では、eスポーツに関する一般論はごく簡潔にとどめて他の解説に譲ることとし、「Shadowverse」に関するゲーム大会を例に、賞金制ゲーム大会と景品表示法との関係を具体的に検討したいと思います3
 なお、筆者は上記ゲーム大会に関与しておらず、ゲーム大会に関する公開情報のみを前提として検討するものであることをあらかじめご承知おきください。

2 検討の前提


(1)景品表示法の規制について


 賞金制ゲーム大会との関係でごく簡潔にまとめますと、大会賞金が「景品類」4に該当し、その付与の仕組みが「懸賞」5に該当する場合、賞金の上限は最大でも10万円となります(いわゆる景品規制)。
 eスポーツにおいて、特に問題となるのは「大会賞金が『景品類』に該当するか」であり、そのうちの「取引付随性」が中心論点になると思われます。

(2)消費者庁の考え方について


 eスポーツについて、景品表示法の監督官庁である消費者庁が公的に示している見解として、2つの法令適用事前確認手続への平成28年9月9日付回答があります。

 このうち、消表対第1305号は、基本プレイ無料のパズルゲームについて、以下の通り判断しています。
 ・大会に無料で誰でも参加ができること、告知は誰でも見ることのできるサイトで行われること等から、賞金は経済的利益を「取引に付随」して提供されるものにあたらない
 ・「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」には経済上の利益の提供は「取引に付随」する提供になるが、照会者によれば「本件企画において、有料ユーザーが有利になるということはない」ため、有料ユーザーが賞金の提供を受けることが可能又は容易とはなっていないのであれば、賞金は「取引に付随」して提供されるものにあたらない
 ・したがって、賞金は「景品類」に該当しない

 逆に、消表対第1306号は、家庭用ゲーム機向けソフトの購入、または、ゲームセンターに設置されているアーケードゲームに金銭を支払うことにより遊戯できるゲームについて、以下の通り判断しています。

 ・照会者によれば「有料ユーザー以外の者が成績優秀者として賞金を獲得する可能性は低い」(有料ユーザーが有利になる)ため、有料ユーザーが賞金の提供を受けることが可能又は容易になる企画であるといえる
 ・そのため、提供される賞金は「取引に付随」する提供にあたる
 ・したがって、賞金は「景品類」に該当する

3 検討①-消費者庁の考え方の留意点-


 消費者庁の上記2つの回答を前提としますと、「有料ユーザーが有利になる」要素(以下、仮に「課金有利性」といいます)をもつといえる場合、賞金が「景品類」に該当し、賞金額に制限がかかるということになります。

 ここで注意を要するのは、上記回答において、消費者庁が当該ゲームの課金有利性を判断したわけではないということです。

 すなわち、消表対第1305号の照会において、照会者は、以下のような前提を定めていました。

 ・照会対象の基本プレイ無料のパズルゲームの有料コンテンツは、「一定時間内に無料でプレイすることができるゲーム回数に制限があるが、有料で提供することを予定しているコンテンツ(アイテム)を購入することにより、その制限を越えた回数のゲームを行うことができる(いわゆる「スタミナ制」)」と、キャラクターの見た目を変える「着せ替え機能」のみである
 ・「大会上、有料ユーザーが有利になるということはなく、無料ユーザーであっても、プレイ歴の長い者や、プレイ歴が短くても適時ゲームを繰り返しプレイしているといったような者であれば、「成績優秀者」として賞金を獲得する可能性は十分にある。」

 消費者庁は、照会者が定めたこの「無料ユーザーであっても、「成績優秀者」として賞金を獲得する可能性は十分にある」(課金有利性がない)という事実関係を前提に回答をしているにすぎず、「スタミナ制」については課金有利性がない等と判断したわけではありません。

 そして、実際の課金有利性の判断はかなり難しいと思われます。

 例えば、極端な例ですが、スタミナ制を採用しているゲームの場合でも、無料ユーザーは1週間位に1回分のプレイしかできない仕様のスタミナ制なのであれば、無料ユーザーがいくらゲームを繰り返しプレイしても、「成績優秀者」になれる可能性は低く、有料ユーザーが有利になると考えられます。
 そうすると、単純に「スタミナ制であるから課金有利性はない」とはいえませんので、「スタミナ制」という事情1つとっても、どの程度の期間で1回分のプレイができるスタミナ制であれば、課金有利性がないといえるのか等、個別具体的な判断をせざるを得ないところです。

 さらに、実際のゲームでは、消表対第1305号の照会のように「スタミナ制」「着せ替え機能」のみのゲームはほぼ存在せず、いわゆる「ガチャ」等様々な課金のシステムを複合的に備えるゲームが多いため、これらを総合して、課金有利性を判断する必要があると考えられ、より判断は困難になると思われます。

4 検討②―課金有利性―


 以上を前提として、スマートフォン向けカードバトルアプリ「Shadowverse」の賞金制ゲーム大会を例に、課金有利性の有無を考えていきたいと思います6


(1)ゲーム及び大会の概要


 冒頭申し上げたスマートフォン向けカードバトルアプリ「Shadowverse」のゲームと大会の概要は以下の通りです7

 ・基本プレイ無料
 ・プレイヤーはカードを集め、ルールに従って好きなカードを40枚組み合わせた「デッキ」を作成し、他のプレイヤーやコンピュータが自動操作する対戦相手と対戦することができる
 ・いわゆるスタミナ制は採用しておらず、通常のプレイヤー同士の対戦は無料で自由に行うことができる
 ・プレイに必要なカードは、1000種類以上存在し、ゲームのプレイによって無料で必ず入手できるものと、カードパックを入手することにより入手できるカードに分けられる8
 ・定期的に新しいカードパックが追加され、カードの種類が増加する
 ・カードパックの購入には、「チケット」・「ルピ」・「クリスタル」のいずれかが必要である
 ・「チケット」・「ルピ」はゲームへのログインや、ゲームプレイにより入手でき、「クリスタル」は課金により入手できる
 ・カードパックを購入することにより入手できるカードは、「レッドエーテル」を使用して、好きなカードを自由に生成することができる
 ・カードには、レアリティが設定されており、レアリティごとにカードパックから排出される確率や、カードの生成に必要な「レッドエーテル」を消費する量が異なる
 ・「レッドエーテル」は不要なカードを分解することやゲームのプレイにより入手することができる
 ・大会においては、ゲーム内でのカードの所有の有無にかかわらず、大会において使用できる全てのカードを使用することができる
 ・大会には誰でも無料で参加することができる

(2)課金有利性判断の要素


 さて、以上を前提に、「Shadowverse」のゲーム大会が「有料ユーザーが有利になる」か否かを検討することとなります。


 まず、ゲーム大会における課金有利性を判断するにあたっては、以下の2点をそれぞれ検討する必要があると思われます。

 ①大会において有料ユーザーのみが使用できる要素の有無と勝敗への影響の程度

 ②有料ユーザーのゲーム技術向上の優位性の有無と勝敗への影響の程度

 「Shadowverse」では、①の要素は存在しない(大会においては、参加者は全てのカードを使用することができる)ため、以下、②について検討いたします。


ア まず、前述の通り、実際のゲームには、消表対第1305号の照会のように「スタミナ制」「着せ替え機能」のみのゲームはほぼ存在せず、いわゆる「ガチャ」等様々な課金のシステムを複合的に備えるゲームが多いため、これらを総合して、有料ユーザーのゲーム技術向上の優位性を判断する必要があります。


 この点、「Shadowverse」はカードバトルアプリですが、スタミナ制ではありませんので、対戦可能回数において、有料ユーザーと無料ユーザーとの間に優劣はありません。
 他方、カードゲームの技術向上のためには、様々なカードを入手したうえで、そのカードを使用して技術向上を図る必要がありますので、「カードの入手において有料ユーザーが有利である」といえれば、ゲーム大会においても、有料ユーザーが有利と考えられそうです。

 そこで検討しますと、カードの主な入手方法である「カードパック」は、課金で手に入る「クリスタル」、ゲーム内で手に入る「チケット」「ルピ」といずれでも入手可能です。
 そうしますと、上記「チケット」「ルピ」に加え、課金アイテムである「クリスタル」による入手が可能な有料ユーザーの方が、カードを容易に入手できることは明らかであり、必然的にゲーム大会においても、有料ユーザーが有利になる――このような考え方もあり得そうです。

 しかし、上記のような結論は、「チケット」「ルピ」の入手頻度、入手数やカードパックに対するそれぞれの消費量、カードの入手難易度等のゲームの具体的内容に応じた事情を捨象しているため、あまり実態を捉えていないように思われます。


イ そこで、「カードの入手における有料ユーザーの優位性が勝敗に影響する」という点について、更に詳しく検討を進めてみます。


 検討の方法・視点は様々あると思われますが、ここでは、一例として、「『Shadowverse』のゲーム大会優勝者が使用するようなデッキを無料ユーザーが容易に作成することができるか」との点を考えてみたいと思います。
 何故なら、有料ユーザーが無料ユーザーに比してカードを若干入手しやすいとしても、無料ユーザーもプレイを重ねることで、容易に優勝者と同様のレアリティのカードを入手して、同等のカードを用いて技術向上を図ることができるのであれば、カードの入手における有料ユーザーの優位性は勝敗に影響しない可能性が高いと考えられるためです9

 そこで、本年9月16日開催のゲーム大会「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」の成績優秀者のデッキ のうちの優勝者のデッキの1つ10の内容を見てみますと、レアリティがレジェンドのカードが9枚、ゴールドレアのカードが5枚、シルバーレアのカードが13枚、ブロンズレアのカードが13枚となっています。

 そして、これらのカードを無料ユーザーがカードパックにより入手することは相当困難と思われます。

 例えば、このデッキに3枚入っているレジェンドのカード「幽霊支配人・アーカス」は、カードパック「DAWNBREAK NIGHTEDGE」に収録されていますが、その排出率は0.06%です。
 カードパックは8枚入りですので、1個のカードパックで「幽霊支配人・アーカス」が排出される可能性は、約0.5%、100個のカードパックを入手しても約38%(3枚入手できる可能性は約1%)と思われます。

 「Shadowverse」では、新カードパックのチケットが10個無償配布されますし、ログインボーナスやゲームプレイで入手できるルピを100使用してカードパック1個を入手することもできますが、それでも、課金なく該当のカードパック「DAWNBREAK NIGHTEDGE」100個を入手するためには、1か月から数か月が必要になると思われます。
 さらに、仮に、該当のカードパック100個を入手しても「幽霊支配人・アーカス」を3枚入手できる可能性は約1%ですから、カードパックの入手のみを考えますと、「Shadowverse」では、無料ユーザーはゲーム大会優勝者が使用するデッキを容易に作成することができないといえます。

 そうしますと、無料ユーザーは、(大会では、優勝者が使用するようなレアリティの高いカードを含むデッキを使用できるものの、)レアリティの高いカードを入れたデッキを使用した技術向上を図れないままにゲーム大会に臨むこととなりますから、成績優秀者として賞金を獲得する可能性は低いと考えられます。
 そのため、「『Shadowverse』は、カードの入手における有料ユーザーの優位性が勝敗に影響するゲーム、すなわち課金有利性があるゲームである」との考えもあり得そうです。


ウ 他方で、「Shadowverse」では、入手したカードをレッドエーテルというアイテムに分解し、レッドエーテルを用いて指定するカードを生成することができます。

 この仕組みを考慮しますと、課金有利性の判断も異なってくるように思われます。

 まず、上記デッキに含まれるカード40枚の生成に必要なレッドエーテル数の合計は、38,750で、カードパック1個あたりで入手できるレッドエーテルの期待値は約470ですから11、カードパック80~100個の入手により、上記デッキのカードを全て生成することができるものと見込まれます。

 そして、「Shadowverse」では、ゲーム開始後のチュートリアルのクリアにより、カードパック4種類の「チケット」各10枚が配布されるほか、新カードパックの追加毎に「チケット」10枚が配布されています。
 また、このチケット50枚に加え、ストーリーのクリア、練習モードのクリア、ログインボーナス、デイリーミッション等を考えますと、カードパック100個分のルピやチケットは比較的早期に入手できると考えられます12

 上記のような事情は、「Shadowverse」のゲーム大会優勝者が使用するようなカードを無料ユーザーが容易に入手することができ、同等のカードを用いて技術向上を図ることができることを示しているといえ、課金有利性がないという方向に傾く事情と思われます。


(3)小括


 紙幅の関係でこれ以上の詳細な検討は控えますが、さらに詳細に検討するとしますと、無償で配布しているアイテムの種類・量を全て洗い出し、その入手によりどの程度カードを入手できるのか等も含め、より細かく検討していくことになると思われます。
 「Shadowverse」は、カードを直接入手する「レッドエーテル」という仕組みを設けることで、無料ユーザーの特定のカード入手を大幅に容易にしていますので、この点が、課金有利性の判断において相当程度有利に働く要素になると考えられます。

5 おわりに


 上記の通り、課金有利性の判断は、ゲームの様々な事項等を多面的に検討し、判断せざるを得ず、かなり難しい判断になるものと考えます。
 また、今後賞金制ゲーム大会を視野に入れたゲームの開発においては、ゲームデザインの段階から、このような課金有利性の観点からもデザインを検討しながら、開発を進めることも検討すべきでしょう。
 賞金制ゲーム大会についてご不安やお悩みなどがございましたら、お気軽にご相談ください。



以 上
    __________________
    1先日、一般社団法人日本野球機構(NPB)が、プロ野球eスポーツリーグ「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」 (http://npb.jp/news/detail/20180719_02.html)とプロ野球12球団が参加する「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」
    (http://npb.jp/news/detail/20180727_01.html)の開催を相次いで発表したことは、記憶に新しいところです。
    2東京大学法科大学院ローレビュー12巻(2017年)86頁以下
    3 eスポーツについては、景品表示法の問題のほか、刑法上の「賭博」に関する論点、風俗営業法上の論点もありますが、本稿では割愛いたします。
    4「顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」をいいます(定義告示1)
    5「商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること」をいいます(懸賞制限告示1)。
    6なお、ゲーム大会については、大会主催者と賞金提供主体は別主体である場合には賞金は景品類に該当しませんし、賞金自体を仕事の報酬として整理することで賞金が景品類に該当しないとの議論等もあるところであり、検討するゲーム大会ではこのような理論構成によって景品類規制をクリアしている可能性もありますが、本稿では、これらの点は措き、上記消費者庁の考えが適用された場合の課金有利性に関して検討することといたします。
    7ゲーム大会も複数存在するところですが、今回は、「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」(https://rage-esports.jp/2018autumn/sv)のルールを前提としています。
    8構築済みデッキの購入による方法もありますが、割愛いたします。
    9当然ながらこの点以外にも、対象のゲームのゲーム性、技術向上に必要な事項、当該デッキ作成に要する工数の多寡、複数のデッキを用意することの容易性等様々な要素が影響し得ます。
    10「Shadowverse」のゲーム大会においては複数のデッキが必要となることが多いところです。
    11カードパックに含まれるカードを全て分解した場合です。なお、カードパックは8枚入りで、排出率は、レジェンド1.50%、ゴールドレア6.00%、シルバーレア25.00%、ブロンズレア67.50%(うち1枚はシルバーレア92.50%)で、それぞれ8%の確率でプレミアムカードが排出されます。カードの分解レッドエーテル数は、レジェンド1000(2500)、ゴールド250(600)、シルバー50(120)、ブロンズレア10(30)です(括弧内はプレミアムカード)。
    12細かい数字は省略いたしますが、ストーリー報酬で約800ルピ、練習モード報酬で3000ルピ、ログインボーナス15日分で360ルピとチケット2枚等、様々な報酬が得られます。なお、実際には、この他に2Pickチケットというアイテムがあることや、一部報酬によりレッドエーテルを直接入手できること、カードパックで直接入手できなかったカードのみをレッドエーテルによって入手することになることから、よりレッドエーテルの消費は少なくなります。