過去の新法・新判例

2013年01月01日

ウェブサイト上にリンクを貼る行為と児童ポルノ公然陳列罪の成否~「URL判決」
(最高裁判所平成24年7月9日判決)

弁護士 小林弘和

1 はじめに

 以前(平成24年7月1日付け掲載)、第1審判断を覆し「掲示板上にリンクを貼る行為」について、名誉毀損の成立を認めた東京高等裁判所平成24年4月18日判決をご紹介いたしましたが、今度は、最高裁判所が、第三者が他のウェブページに掲載した児童ポルノのURLを貼る行為について、原審である大阪高等裁判所の判断を是認するという形で、児童ポルノ公然陳列罪の成立を認める判断を下しました(最高裁判所平成24年7月9日判決。以下「URL判決」といいます。)。

 東京高等裁判所平成24年4月18日判決の事案とは若干のずれがあるものの、同判決の上告審判決における判断に影響を及ぼし得るものである点、何より最高裁判所が、民事事件よりもさらに厳格な判断を要する刑事事件において、URL情報を示す行為について「当該URLのリンク先のウェブページ開設者と同等の責任を負う」との判断を示したとも評価し得る点で、非常に重要な判決と思われます。

 そこで以下、このURL判決の内容をご紹介するとともに、若干の考察を加えたいと思います。

2 事実関係

 本件において認定された事実関係は、被告人が、共犯者と共謀のうえ、共犯者がインターネット上に開設したウェブページに、第三者がその開設・運営するウェブサイトに掲載して公然と陳列した児童ポルノのURL情報を、(若干の改変を加えたうえで)自身の運営するウェブサイトに掲載した、というものです。

3 今回の争点(児童ポルノの公然陳列行為の主体が誰か)

 民法第723条にいう名誉毀損が成立するために「ある者が他人の社会的評価を低下させるような事実の流布をした」との法的評価が下される必要があるのと同様、児童ポルノ公然陳列罪においても、同罪が成立するためには、「ある者が児童ポルノを公然と陳列した(不特定又は多数の者が認識できる状態に置いた)」との法的評価が下される必要があります。

 そのため、本件の争点は、URL情報、つまり単なる英数字の羅列であるウェブページのアドレス(例えば、http://www.foresight-law.gr.jp/)を示しただけで、「被告人」自身が「児童ポルノを公然と陳列した(不特定又は多数の者が認識できる状態に置いた)」といえるのか、という点にあります。
 そして、これは、上記の東京高等裁判所平成24年4月18日判決における争点と「近いものがある」(詳しくは後述の「最後に」で述べます。)といってよいと思われます。

4 URL判決の判断(多数意見)

 URL判決は、原審である大阪高等裁判所の判断を是認し、上告を棄却したものに過ぎず、それ自体、何らかの判示を伴うものではありません。
 ただ、大橋正春裁判官の反対意見が詳細に述べられており、そこから推察される最高裁判所の判断(多数意見)の考え方は、以下のとおりと思われます。

  1. ・刑法175条(わいせつ物公然陳列罪)にいう「公然と陳列した」とは、「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にすることまでは必ずしも要しない」というのが従前の判例(最高裁判所平成13年7月16日判決)である。
  2. ・上記わいせつ物公然陳列罪における判断は、児童ポルノ公然陳列罪においても妥当する。
  3. ・児童ポルノが公開されているウェブページのURLを貼れば、「特段の行為を要することなく」当該児童ポルノの内容を「直ちに認識できる」以上、URL情報を単に情報として示した行為も、「公然と陳列した」に含まれる。

5 URL判決の判断について若干の考察(私見)

 しかし、単にリンクを貼っただけで、その者自身が、児童ポルノを「公然と陳列した」と評価する上記URL判決の判断には、私見ですが、とても賛成することはできません。

 児童ポルノをインターネット上に掲載したのは、あくまでリンク先のウェブページ作成者であり、リンクを貼った者は、「児童ポルノが存在する(かもしれない)ウェブページはここですよ。」との所在情報を掲載したに過ぎないというべきです。
 そのため、上記URL判決の判断は、児童ポルノを「公然と陳列した」者のみが処罰対象となるはずが、その所在情報のみを示した者にまで処罰対象を拡大させたという点で、処罰対象を恣意的に拡大させたものであり、罪刑法定主義(※)違反との評価を免れないと考えられるからです。

 ※ ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を、予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のことです。

 この点につき、大橋正春裁判官の反対意見は、要約すると概ね以下のとおりです。

  1. ・上記わいせつ物公然陳列罪における従来の判決は、「自分自身が開設・運営していたウェブサイト上において」、わいせつな内容の画像データの閲覧をするために「画像データのダウンロード」、「ダウンロードした画像を、画像表示ソフトを使用して再生閲覧する操作が必要」という事案に関するものである。
  2. ・つまり、このわいせつ物公然陳列罪における従来の判決は、本件のように、被告人によって示されたURL情報を使って、閲覧者が改めて画像データ(児童ポルノ画像)が掲載された第三者のウェブサイトにアクセスする作業を必要とする場合まで対象とするものではない。
  3. ・他方、雑誌やポスターにURLその他の児童ポルノ画像の所在場所が示されたからといって、その雑誌やポスターの発行者が児童ポルノを「公然と陳列した」ということにはならないはずであり、このことは、インターネット上のウェブページにおいてなされる場合も同様である。
  4. ・したがって、URL情報を単に情報として示した行為が、児童ポルノを「公然と陳列した」に含まれると解することはできない。

 大橋正春裁判官は、上記URL判決の判断(多数意見)につき、「罪刑法定主義の原則をあまりにも踏み外すもので…このような行為については、児童ポルノ公然陳列罪を助長するものとして、幇助犯(※)の成立を検討すれば足りるのであって、あえて無理な法律解釈をして正犯として処罰することはないと考えられる」とも述べており、私もこれに同調するところです(なお、寺田逸郎裁判官も、この大橋正春裁判官の反対意見に同調しています。)。

 ※ 幇助(ほうじょ)犯とは、他人の犯罪行為・違法行為を容易にするため、有形・無形の方法で助力した者をいい、刑法第62条により、正犯(正に罪を犯した者)の刑を軽減した刑が科されます。

6 最後に

 結論・理論構成の当・不当を議論したところで、最高裁判所がURL情報を示すのみでも児童ポルノ公然陳列罪の正犯と評価し得るとの判断を下したという事実は変わりません。
 そのため、上記リンクを貼る行為が名誉毀損に当たり得るとの判断を示した東京高等裁判所判決の判断が、最高裁においても是認される可能性は極めて高くなったといわざるを得ません(※)。

 ※ ただし、同東京高等裁判所判決は、名誉毀損を理由とする発信者情報開示の是非が争われた民事事件に関するものであり、争点も、厳格には「URLを貼った者が『事実を流布した』と評価できるか」という点にあったのに対し、URL判決は、児童ポルノ公然陳列罪という刑事事件に関するものであり、争点も、「URLを貼った者が児童ポルノを『不特定又は多数の者が認識できる状態に置いた』と評価できるか」という点にあるという違いがあります。
 「事実を流布した」との要件に比べ、「不特定又は多数の者が認識できる状態に置いた」との要件は、URL情報を示す行為との親和性が高い(要件充足性が認められやすい)ように思われるところ、最高裁判所が、「事実を流布した」との要件については、その充足性を否定することを望みます。

 そのため、インターネット上で情報を発信しようとする方が気をつけるべき事項が増えたことはもちろんですが、掲示板等のCGMサイトを運営する企業・プロバイダ、クローラーなどを用いて自社サイトにコンテンツの関連情報URL等を掲載している企業にとって、規約やURLの掲載方法、サイト運営方法について、改めてリスクを検討する必要性も、飛躍的に高まった(高まってしまった)というべきです。
 CGMサイトその他のウェブサイトの利用規約やサイト運営方法に関するアドバイス・作成を数多く行っておりますので、当事務所であれば、この点に関するリスクヘッジの手法等をアドバイスし、また、それらリスクヘッジの手法を盛り込んだ利用規約を作成することも可能です。もしよろしければ、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

以 上
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